資料編
資料1. 中小造船業に対する緊急的な施策についての提言(平成10年9月)
中国地区造船・舶用工業の地域ビジョン策定に関する調査研究委員会
委員長 広島大学工学部教授 小瀬 邦治
はじめに
本委員会は中小造船業の地域ビジョンの提言を目標にして検討を重ねているが、日本の物流構造の変化に今日の日本とアジアの不況の影響が重畳した形で、内航海運はきわめて厳しい局面を迎えている。また、内航船腹調整制度の廃止とそれに伴う暫定措置は内航船建造需要を大幅に変化させ、折からのアジア経済の変動による近海船需要の減少もあり、中小造船業はほとんど建造する船舶が無いという深刻な事態を迎えている。
このままでは内航船を提供する中小造船業が存続できず、地域の経済と産業にも多大の困難をもたらすという事態が懸念され、中小造船業が崩壊したのでは本委員会のビジョンの提言も無意味と化す可能性がある。事態の緊急性を考慮して、関係方面に必要と考えられる施策を緊急提言することにした。
1. 内航船を巡る情勢
国際、国内経済が未だ経験しないほどの厳しい構造的な変化迫られており、その中で物流コストの削減要求が熾烈化している。こうした構造的な変化に加えて、現下の不況影響の重畳した形で輸送需要は大幅な落ち込みを経験している。
こうした条件下でガソリンのメーカー間の相互融通などのように内航船の需要構造も変わりつつあり、船腹過剰が顕在化し、あいつぐ用船料引き下げによって船主経営も悪化しており、内航規制のもとで革新が遅れた内航海運は見通しを喪失していると言えよう。
こうした状況の下で船腹調整制度を廃止する方向が打ち出されたが、既存船のいわゆるスクラップ権に対応する原資を確保するために新規に造船する場合には負担金が課せられるという暫定措置がもうけられたので、内航船建造意欲は極端に喪失され、さらに、折からのアジア経済の挫折による近海船の落ち込みも加わって事態を深刻にしている。このままの事態が長期化すると、内航船の供給基盤が壊滅的に打撃を受ける可能性が高いと推察される。
物流コスト削減要求や環境に優しい輸送の要請は国内物流における内航船の役割をより重要にする。その内航海運の発展のためには経営力と技術力のある造船業を必要とする。しかし、国際的に見ても、日本の物流条件にあった内航船腹を提供する造船業を他に見つけることはできず、国民経済的視点からも、日本の内航船造船業の新たな発展はきわめて重要であり、今日の苦境で壊滅的打撃を受ける事態を回避する必要がある。
つまり、暫定措置に伴う極端な新造船需要の落ち込みに対する当面の対策とともに、現在の危機を近い将来の内航海運を支える造船業確立のための好機とするための施策の総合的堆進が緊急に必要といえる。