VII. 実現に向けて
今後とも、中国地区の中小造船・舶用工業が健全で魅力ある産業として、さらなる競争力の強化を図っていくための中国地区の中小造船・舶用工業の将来像を第V章で示した。
将来像の5つの柱、「企画提案型産業」「高度情報化産業」「ネットワーク型産業」「環境調和型産業」及び「グローバル産業」のどれを取ってみても、また、将来像実現を支えるための方策、経営資源及び経営体質の強化についても、各事業者が個々に、あるいは連携を図って、将来像実現のために努力していかなければならないものである。現在の厳しい経営状況の中においてこそ、中長期的な将来の方向性に基づいた取り組みが必要であり、前向きな転廃業も視野に入れた上で、各事業者の積極的・主体的な取り組みが望まれるところである。
第VI章では、調査研究委員会、地区部会、アンケート等で提案のあった将来像実現のための具体的方策を示した。これらの方策は、主に、事業者が連携し、国や地方自治体の支援を受けながら行うものを例示的に示している。各事業者は、連携組織が作られるのを待つのではなく、ここで示した具体的方策を参考に積極的な活動が望まれる。特に、次に上げた3つの項目については早急な対応が必要である。
○ 企画提案型への移行を支えるニーズの把握、技術開発力を強化するための方策
○ 高度情報化の推進体制の整備のための方策
○ 将来像実現を支えるための造船・舶用関連の技術研修・人材育成のための方策
以上に示した事項に実際に取り組むことが可能なのは、将来的には健全な経営が可能な事業者であると予想される。しかし、海運造船合理化審議会造船対策部会の補足意見書に、供給能力と将来の船腹需要の関係から遅くとも平成12年度中までに現在の設備能力を基数単位で20〜30%削減が必要であると示されている点に留意し、地域の競争力を維持する観点から、造船業基盤整備事業協会による過剰造船設備の買い取り事業を積極的に活用するなど転廃業、業界再編成等も視野に入れる必要がある。
現在の内航海運暫定措置事業に基づく内航船船腹量引き締めは、将来、内航海運、中小造船・舶用工業が健全な状態で成り立つために必要ではあるものの、将来的には健全な経営が可能な事業者にとっても、現在は、非常に厳しい状況となっており、この状況の克服方策について、業界関係者による積極的な取り組みが求められる。調査研究委員会においても、当面の危機回避のため緊急的な施策の必要性について提言をとりまとめ要請したところである。
この調査研究を進めていくに従って、多くの中小造船所の経理が大雑把であり、経営資源及び経営体質強化のための財務管理見直しも行うことができない現状であることが明らかとなった。今後、中小造船所の規模に応じた望ましい財務管理体制のあり方について調査研究を行っていく必要がある。
中国地区は、産業集積が進んでいるため、事業者間の連携が密に行われれば、船主・荷主のニーズに対し機敏に対応することができる地区である。この特徴を活かし、他地区と異なった方向の事業展開が可能であると考えられる。このためにも、各事業者が将来像実現のための積極的な活動が望まれる。