海洋のメタンハイドレート-地球環境激変のシナリオ
東京大学地質学学科
松本 良
(座長)東京大学の松本先生にお願いしたいと思います。松本先生は東京大学、大学院理学研究科の教授でございまして、JR号が、初めて深海のメタンハイドレートを掘削した大西洋の航海に乗船されておりまして、メタンハイドレートは何回か話題になりました様に、その自然現象として、環境にも大きな影響を与えると考えられていると同時に、将来のエネルギー資源の可能性もある事から注目されているものでございます。それでは松本先生、お願い致します。
ご紹介ありがとうございました。東京大学の松本です。氷についての話がしばらく続きまして、氷は過去の環境の記録者としてだけではなくて、氷そのものが地球環境を大きく変動させている、という点からの研究が今盛んになっています、そういう話が幾つかありましたけれど、私がお話するのも氷でありまして、ただ、この氷は燃える氷であります。
(FIG.-1)
そちらでご覧に入れてるのは、下の方に白く固まっているのがこれがメタンハイドレートでありまして、メタンハイドレートは地表条件では分解してメタンガスと水になりますので容易に燃えてしまう訳です。で、これが燃える氷で、これが又、普通の氷と同じようにあるいはそれ以上に地球環境を変動させる上で非常に大きな役割を担うらしいと言うことが最近次第に分かって来た訳です。
(FIG.-2)
で、今日は初めに、ここに書きました様な順番でお話をして行きたいと思いますけれども、初めにメタンハイドレートとは、という事で 1番と2番で、現在地球上に在るメタンハイドレートについての大体の話をして、その後で最後に環境へのインパクト、パレオシン(暁新世)に於ける絶滅事件を例にガスハイドレート・ハイポセシス(ガスハイドレート仮説)というものについてお話をして行きたいと思います。
で、始めにメタンハイドレートあるいはガスハイドレートというそういう言葉が使われておりますけれども、又ガスハイドレートというのは様々なガスを含んでいる言葉ですけれども、実際は天然のハイドレートというのは殆どがメタンから成っていますのでメタンハイドレートとガスハイドレートは殆ど同じ意味で使われていると言う事で、ODPに於てはガスハイドレートという言葉を使っているのが普通です。
(FIG.-3)、 (FIG.‐4)
初めに「メタンハイドレート、ガスハイドレートとは?」、という事で、これは個体状のガスであります。で個体状と言ってもこれは圧力を高くして低温にして行って最後にPhaseが個体になるのではなくて、水分子が作るカゴ構造cage structureとその中にメタンガス分子が取り込まれるという形で1つのsolidな状態が安定化する訳です。左に示しましたのが、その結晶構造でありましてユニット・セルとしては46ケの水分子が8ケのケージを作る。つまり46ケの水分子によって8ケのメタンガス分子が取り込まれると言うことになりますので、構造式としては簡単に書きますとCH4の6倍のH2Oと、こんな形に書ける訳です。で、こういう構造式が成り立っている場合には、理想的にすべてのケージがメタンガス分子で充填されているという、そういう理想的なハイドレートの場合にはほぼ、それ自体の体積の170倍、あるいは160倍のメタンガスがこの中に取り込まれていると言うことになる訳です。