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(FIG.-6)

北極海に流入する河川水は北極海が半ば閉じた海であるために、すぐには外用に流出せずに表層約50mの厚さで拡がっております。これを表層低塩分水と呼んでおり、下層の水よりかなり低密度ですので、密度的に安定した成層構造になっております。このために厳しい大気冷却などによって起こる対流が殆ど、この表層内部に限定されております。この表層低塩分水は大気や海氷さらには、降水の影響を強く受けますが、その分だけ表層水より下位にある深い水はそういった影響を殆ど受けないで保護される事になります。

ベーリング海峡から流入する太平洋起源の寒冷水は、平均水温1℃よりすこし低く平均塩分が約12ないし32パーミルと比較的小さい密度のために、50mから100mまでの浅い層を形成しております。先程申しましたように、海氷が形成されるに伴って排出されたブラインが大陸棚から流入し、さらに下層に拡がった高温・高塩分の大西洋起源水からの湧昇、upwellingですね、湧昇水と混合して、水温がマイナス1.7℃から0℃位、塩分濃度が34.6パーミル位の大陸棚起源の水が発達しております。

FIG-5の最初に申しました大西洋起源の高温(平均1.5℃)、高塩分(平均34.90パミール)の水は、500mから1000mまでに拡がっております。温かい大西洋起源水の下には温度0℃からマイナス0.4°C、塩分濃度34.93パミールの寒冷水が深層水として存在しております。この深層水は最近の研究に拠って2層に分けられるという事が分って来ております。この様に北極海では、高温・高塩分の大西洋起源水が上下を寒冷水ではさまれ、その中間に拡がっているために、表層にある海氷は融解しないで北極圏の気候は非常に厳しいものとなります。

 

(FIG.‐7)

北極圏は特徴的な2つの表層水循環から構成されており、それが海氷分布に大きく影響しております。1つ目は、カナダ-アラスカ沖から中央部にかけて存在する、時計廻り循環のボーフォート旋回流(ジャイヤ)であります。この旋回流は海氷を北極海から外洋へ流出させないために、何年間も夏を過した厚い多年表が形成されます。

一方、ベーリング海峡沖からシベリア沿岸に沿ってフラム海峡の方に向かうトランスポーラードリフトは、海氷の一部を北極海から流出させて、夏に、アラスカ、シベリア沿岸沖に顕著な開水面域を形成します。

 

(FIG.-8)

北極圏は広く浅い大陸棚で囲まれた深い窪地であります。一番最初に申しました様に、浅海域の掘削にはライザーシステムを持ったボーリング船が必要となります。中心の深海平原は長さ2500km、幅1500mで北極点を取り巻きグリーンランドと直交しております。3つの平行した海域が走っており中央のロモノソフ海嶺は、海底から1000mから4000mの高さでそびえ、深海平原を東側の、図では右寄りになります、小さくて深いユーラシア海盆と西側の大きくて浅いアメラシア海盆との2つに分けております。ロモノソフ海嶺は元来、カラ大陸棚―上の方に出ております―と、連続していた大陸地殻から成る非地震系の海底山脈であります。

 

(FIG.-9)

この図は、北極圏の地質構造図を示しております。北極圏では最も古い、図では黒い色で塗りつぶした部分でありますが、大陸性の基盤岩が露出しておりまして、それが海洋盆の周辺に沿って発達しております。海洋盆を閉じたジュラ紀前期の1億9000万年前の復元図では、これらの基盤岩が一列に並んできまして、ロモノソフ海嶺はフランツ・ジョセフ島やセベルナヤ・ゼムリャ群島からノボシビルスクまで隣接することになりまして、一体のものとなります。さらに2000mの等深線では、カマロフ海盆が閉じて、アルファー海嶺や、メンデレーフ海嶺と一体となります。従ってアルファー海嶺やメンデレーフ海嶺も大陸性地殻ではないかと考えられる訳です。地質構造図が出ておりますので分かりづらいかも知れませんけれども、簡単に構造区について述べておきます。1つは、先カンブリア紀後期から古生代のプラットホーム、それから褶曲帯で覆われた古い楯状地から成る大陸地殻があります。2つ目として、古生代後期以降に沈降した深い堆積盆を持つ広大な大陸棚と陸上の低いテレーンがあります。最後の3つ目として、古生代後期から新生代に形成された若い海洋盆であります。図では白く塗ってあります。

 

 

 

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