1番目として、海氷は日射の大部分を反射してしまう、という事があります。これは太陽からの放射エネルギーが高緯度域ほど水平に近い角度で入射する事に拠っております。即ち、反射能、アルベドと申しますけれども、それが海氷域では周辺の海水に比べて非常に高いという特質があります。
2番目として、海氷は大気と海洋との間の熱交換を著しく抑制しております。海は海氷の結氷温度であるマイナス2℃以下には冷却されませんが、大気はマイナス数度からマイナス10数℃までに下がり、海面付近に非常に大きな温度勾配が出来ます。莫大な熱が海から大気に放出されるはずでありますけれども、海氷が暖かい海を覆ってしまい、熱の放出が大幅に抑制されてしまうという事があります。即ち、海氷はお風呂のフタの様な働きをしております。その為に北極圏では寒さが非常に厳しくなるのです。
3番目として、海氷の正のフィード・バック効果というのがあります。海氷自身の存在が、周辺の大気冷却を招き海氷域のさらなる拡大を促すことになります。又、海氷の溶解が始まると反射能、アルベドが減少し海から大気への熱放射も増大しますので、大気は暖まり海氷域の後退は加速される事になります。
この様な3つの特性によって海氷は地球の温暖化、あるいは寒冷化などの気候変化に対して高感度で反応しておりますので、その挙動を監視する必要がある訳です。
4番目として、海氷は熱と塩の再配分をします。海氷の形成に伴って、潜熱を大気中に放出します。また、結氷部分は塩を全く含まない純粋の氷から成りますので、海に高塩分水、これをブラインと呼びますけれども、その高塩分水を排出します。ごく一部は海氷内部に閉じ込められますが、殆どは海氷の底の面に排出され高密度のため比重が大きくなって海水中を降下して大陸棚の上に、高密度水層を形成することになります。この高密度水は世界の海洋深層水の源となり、海洋の熱塩循環、thermo brine circulationというのですけれども、熱塩循環の駆動源となります。
最近になりまして、海氷域南部に大小様々な開水面あるいは疎氷面(ポリニア)のある事が判っております。そこでは、氷の小さな結晶(フラジル・アイス)が大量に形成され、この図の上に書いてありますけれども、風下の方に吹き寄せられて海水と混合しまして、グリース・アイスとなっております。この様に海氷の生成と消滅に関するサイクルが非常に良く解明されるようになっております。
(FIG.-5)
これは、National Geographic、複写させて貰いました。右の下の所に今述べましたように、海洋大循環、熱塩循環(thermo brine circulation)の様子が書かれております。赤の線が表層水、青の線が深層水となっており、世界中の海を2000年かけて一巡すると言うことになっておりまして、今日ご紹介します北極圏それから南極大陸の周辺で、この深層水が形成されるという訳であります。北極海での深層水形成のメカニズムは海峡の深度と関係して来まして非常に大事なことになります。
即ち、北極海の海峡と北極海に流入あるいは流出する水塊との関係が非常に大事になっていますので、その事について簡単に述べておきます。
北大西洋に起源を持って、グリーンランド海を経てフラム海峡から北極海へ流入し水深500mから1000mまでの辺りに拡がる高塩分水があります。湧昇と書いてある所です。それから、図の説明の真ん中辺りに、そういった事が書いてあります。
2番目として、ベーリング海峡から流入する北太平洋起源の寒冷水があります。ベーリング海峡は現在狭く浅いために流入する量は非常に少ない訳であります。それは、2層目ですね。50mから100mまでの層を形成しています。後程、成層構造については述べます。
3番目になります。周辺の陸域から流入するオビ、レナ、エニセイ、マッケンジー等の大河を経由して、流入する雪であるとか氷が溶けた陸水があります。こうして流入してきた量と同じ量の海水がフラム海峡、これは、フェラノとかシェトランド海峡それからデンマーク海峡それからカナダ多島海の多くの海峡を通って流出しております。