(FIG.-1)
皆様ご存知の様に地球の全表面のうち海洋の表面というのは、太陽から来た放射熱、いわゆる日射と呼んでいますけれども、これを非常によく吸収する部分であります。しかし、この海洋の表面が氷や雪で覆われてしまうと、今度は逆に最も効率の良い反射体になります。そういう事で水が凍結するかあるいは逆に水が溶解するかという事は氷点―いわゆる真水で0℃海水でマイナス1.9℃でありますけれども―それよりも温度が少し高いかあるいは少し低いかによって決まってしまう非常にcritical Pointと言いますか、非常にデリケートです。
2つ目には、海はご存知の様に非常に大きな蒸留器であります。海は毎年44万8,000km3の水を蒸発させております。湿った空気が(午前中の講演にもありましたように)地球を覆って熱が宇宙空間に逃げていくのを防ぐと共に、大地を潤し私達が食べる収穫物を実らせております。
3番目に、海はまた強力な温度調節器であります。海が持っている大量の水と海水の大きな熱容量とによって、気候の季節変化や熱変換を和らげております。海は温度変化を平均化しますけれども、陸地は逆にそれを極端化するという意味相いから、陸地面積の多い北半球の環境変動を調べる事が重要になってきます。ご存知の様に、日射は赤道で強く極域で弱い、という事で日射のわずかな違いが増幅される極域での気象・気候の研究が大事になってきています。
最後に、海水は地球全体の大気圏へエネルギーを供給します。強い風、それから嵐、これが海水をかき混ぜ移動させます。海流は大気と協力しあって極と赤道との温度差を少なくしております。
FIG-1にあります様に陸地の含める面積あるいは海の占める面積で、地球の半球を海半球あるいは陸半球を分けることがあります。今、申しましたように陸半球での気候変動を調べることが非常に大事であると言う訳であります。
(FIG.-2)
現在、北極海は周りを陸地で囲まれた、半ば閉じた日本海や地中海のような、内海(うちうみ)であるのに対しまして、南極海は南極大陸の周りを取り巻く開放的な海であります。北極海の面積と南極大陸の面積とは、実は殆ど面積が同じであります。海水が凍って海氷となるのか、それとも真水、海水のままでいるのかという事が、気候への影響という観点で北極海における海水の移動を知ることが一層大事になってくる訳であります。その割には、極域での海水の研究というのは環境条件が厳しい分だけ研究が進んでおりません。尚、こういった大陸の地理的分布に関する発達史というのは、ご存知の様に、プレート・テクトニクスで説明される訳でありますけれども、北極圏に関しましては陸域の調査が十分に進んでいない事もありまして、プレート・テクトニクスに拠る説明も周辺地域から類推しており、北極海それ自体の調査に基づいた説明がなされておりません。
(FIG.‐3)
北極海は冬には全面が凍り、海氷となって大気との直接の接触がなくなります。夏にはその周辺部が溶けて海水面が拡がるため日射を呼吸して暖かくなります。毎年繰り返される冬の拡大と夏の後退という海氷域全体の変動過程が、海氷城内部での変動と共鳴しあって年毎に様子が異なってきます。近年、こういった海氷の時間・空間的な変動が地球規模の気候変動に重要な役割を果たしているという事が判明しております。海氷の実態調査と過去から現在への歴史的復元の重要性が指摘されております。
(FIG.-4)
今、述べましたように、海氷というのは気候変動にとって非常に重要である訳ですが、海氷の特性について、おさらいをしておきましょう。4つか5つ位あげる事ができます。FIG-4には大事な3つの点だけ述べております。