北極圏深海掘削(Nansen Arctic Drilling Program)
北海道大学・大学院理学研究科・教授
小泉格
(座長)
北極圏深海掘削―Nansen Arctic Drilling program―について北海道大学の小泉先生にお話をして頂きたいと思います。小泉先生は北海道大学大学院の地球惑星科学の教授でございます。古生物をご専門に研究を進めて来られておりますが、深海掘削につきましては我が国の研究者の中では最もJR号への乗船の経験が豊富な、7回と書いてあり非常に海洋掘削で研究の成果を上げてこられた方でございます。今日は北極圏の海底を掘る、ナンセン・ドリリング・プログラムについてお話を頂きたいと思います。じゃ、どうぞ宜しくお願い致します。
ただ今、ご紹介頂きました小泉です。
ナンセン・ドリリングの話をしなさいという事ですけれども、残念ながら、私は、その道の専門家ではありません。これから述べますようにこの計画に取り組む我が国の体制が遅れておりましてその事を今日40分位、時間を頂きまして、同計画の背景等を話します。
北極圏の掘削というのは、ヨーロッパ、ドイツ、ノルウェーなどの人達を中心にカナダ、もちろんUSAの人達もそうですけれど、かなり積極的に計画が進んでおります。この計画は国際計画であります。
我が国はどうした訳か、非常に乗り遅れております。1990年の3月に極地研で最初の国内召集会というのを持ちました。その時にいろんな関係がありまして、私はこの計画の重要性を積極的に発言したのが、10年後の今日のこの会合に結びついているんではないかなと思っています。それから先程、堀田さん(JAMSTEC理事)にお伺いしましたところ、JAMSTECにある「みらい」研究船が今年から、何年か計画でベーリング海峡を通って、一番近くにある、チェチュ海に入る計画があって中層水、低層水の観測を主体とした地球物理観測が始まるという嬉しいお話がありました。そんな事がありまして、本日は北極海の重要性についてお話を申し上げます。
北海道は、日本の北の端にあり、そのすぐ後に北極海があります。それはベーリング海峡を通じて北太平洋と結ばれております。そして、又今年は、異常気象でありまして日本列島は何度も寒波に見舞われております。
異常気象あるいは異常寒波をいうのは実は、北極の上空に発達する寒冷気団と中緯度にある温暖気団との境界が蛇行する現象に基づく訳です。
結局、日本列島に直接関係してくる気象の事を知るためにも、北極圏のいろんな事をちゃんと知っておく必要があるにも拘わらず、知らない事が余りにも多過ぎるのではないかと言う事です。
もう1つ大事な事があります。それは北方を通る航路の問題があります。今の日本経済を支えている物資の多くは全部南廻りでやって来ています。最近あったオイル・ショックもそうです。日本に持ち込むいろんな物資あるいは輸出するものは、全部南廻りでいいかどうかという大事な問題があると思います。経済的に安定している、あるいは政治的に安定している今のうちに、北方の航路をちゃんと確立しておく、あるいは、そういった基礎的なデータを集めておくという事が非常に大事な事ではないかと思います。
日本はこう言った国際共同プログラムに参加が遅れておりますけれども、海洋科学技術センターにおいて建造の見通しがついた、ライザー掘削技術を導入した地球深部探査船はこういった国際共同プログラムに於て、特に、北方圏、北極海に於ける探査の主役になることが期待されております。
なぜ期待されているのかと言うと、後で申しますように、北極海では大陸棚の発達が非常に著しいのです。あの浅くて広い海が北極海の周辺に発達しております、いわゆる浅海域の掘削は、先程もお話がありました様に、砂であるとか、礫であるとか、粗粒堆積物がありまして、ODPでやっております様な通常のシングルの管では、なかなか堆積物回収が難しい、ライザー・システムを持った掘削船でないと、なかなか大変であると、言う事があります。そういった事の背景について今日は述べます。