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深海地球ドリリング計画についての評価

京都大学名誉教授 門田元

 

1. 全般的評価

ライザー掘削船による深海地球ドリリング計画は、従来型の掘削船による調査では入手が困難であった地殻内部で生じているさまざまな事象についての重要な科学的情報の入手を可能にする。それらの情報は、(1)温暖化現象など現在地球上で進行している気候変動の背景としての過去における地球環境変動の解析、(2)将来発生が予測されるプレート地震の震源近傍の状況の直接的把握、(3)崩壊の危険性が懸念される一方、将来のエネルギー資源としての可能性も内包しているメタンハイドレート域の実態把握等のためには欠くべからぎるものである。いずれも、人類の生存環境としての地球の未来に関わる重大な問題であり、その社会的・経済的効果はきわめて大きい。

上述のような社会生活に直接関係する緊急性の高い分野ばかりでなく、自然科学の基礎的諸分野の研究にもこの計画は多くの機会を提供し、 21世紀における科学の発展を促進することが期待される。それにともなって人類が長期的に受ける便益は大きいと考えられる。

 

2. 生物学の立場からの評価

深海底の熱水噴出域での、微生物を中心とする生態系とそれに依存する動物の存在は今までにかなり明らかになってきたが、そこにつながる深海底地殻内における微生物の存在については全く未知であり、微生物学者や生態学者の大きい関心を呼んでいる。とくに注目されているのは、(1)海底地殻内では深度何メートル付近まで、またはどのような地質年代の所まで微生物はいるのか?(2)そこにはどのような物理的・化学的環境が存在するのか?(3)どのような種類の微生物がいるのか?(4)どのような生態系を構成しているのか?(5)その生態系は深海底あるいはそれより上部の地表の生態系にどのようにつながっているのか?(6)それらの微生物は、地殻内でのさまざまな物質循環過程や地質過程、たとえば炭化水素の生成過程にどのように関わっているのか?(7)それらの微生物は生物進化の過程の中でどのような位置にあるのか?などの諸問題であるが、それらに対する回答はこの計画の実施によって得られる可能性が高い。それらの研究の成果は、時空間を通じての地球生態系全体像の解明や生物進化過程の解明につながるものであり、地球科学の飛躍的発展をもたらすものと考えられる。

微生物生態系及び分子生物学の分野では、最近の研究によって超好熱菌などの極限環境微生物、種々のタイプの化学合成独立栄養細菌、進化系統樹上では始原的位置にある古細菌、地質サンプル中に存在する培養困難な微生物の持つ遺伝情報の直接検出及び活性発現などについての新しい知識とそれらを扱う技術的ノウハウが急速に集積しつつあるが、それを背景としてこの計画が実施されれば、一気に研究が進展する可能性がある。その意味

 

 

 

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