c)巨大火成岩岩石区の掘削によるプリューム・テクトニクスの検証
西太平洋熱帯域に散在する巨大火成岩岩石区は、マントルからのスーパープリュームの上昇が起源と考えられている。これら巨大火成岩岩石区を貫通する掘削が可能となることにより、採取された試料から巨大火成岩岩石区の構造と組成が初めて明らかにされ、地球史の鍵ともなるスーパープリューム上昇の実態に迫り、プリューム・テクトニクス仮説の検証も含め地球規模の変動現象の解明に貢献するものと考える。
d)地殻内生命の探索
現在知られている深海微生物の生息限界から推測すると、地殻内生命圏は地殻内温度が120〜130度Cとなる海底下4,000mまで広がる可能性がある。これがライザー掘削によって確認されれば地球の生態系及び炭素循環の概念が大幅に書き換えられることになる。また、生命が熱水中で誕生したとの仮説から海底熱水活動域が注目されているが、熱水噴出口での水圧より高圧の環境下でより活発に増殖する好熱菌が発見されており、生命の起源が熱水噴出口よりもっと深い地殻深部であった可能性も否定できない。このため、熱水域深部までの掘削によって、生命の起源について画期的発見がなされる可能性を秘めているものと考える。
e)ガスハイドレートの生成と崩壊の機構の研究
これまでの海底掘削の成果として、日本近海を含め世界各地の大陸周辺海洋底の堆積層中に、メタンを主とするガスハイドレート層及びその下にガス層が存在することが知られてきたが、従来型科学掘削では直接掘削が不可能で、その実態や成因、さらにはガスハイドレートの分解による大陸斜面の突然の崩壊の可能性などの問題が不明のままとされてきた。これらの問題は、ライザー掘削によってガスハイドレート層及びガス層を貫通し、地層試料を採取し分析することにより初めて解答が与えられるものである。
以上のように、地球深部探査船と従来型掘削船の二船体制による深海底掘削研究は、地球と生命に関する広範囲な科学分野に大幅な前進をもたらすことは確実と考える。また、石油・ガス存在域又は海底下2,000mを越えるような未踏の領域において現時点では想像することもできないような画期的発見がなされる可能性も持っている。なお、以上の各科学目標については、石油・ガス存在域の掘削や海底下大深度掘削によって初めて実現できるものであり、他に適当な代替手段がないと認められる。
(2)技術的意義
ライザー掘削技術は、海底油田の探査のために開発され発展してきたものであり、掘削用機器などについては日本の技術がオイル・メジャーを持つ欧米各国に比べ大きく遅れていることは事実である。このため、今回、地球深部探査船を日本が建造するに当たり、特殊試料採取システムなど計画提案者が取り組んできた科学目的の掘削に不可欠な要素技術等の研究開発成果を活用するとともに、外国技術の導入等により世界の英知(技術)を集めることにより、自前の技術体系を構築することには大きな意義がある。