一方、他分野への技術的波及効果については、単に大水深の石油・天然ガス開発、将来の二酸化炭素深海貯溜等の深海での技術にとどまらず、本計画で得られた掘削技術は、陸上での科学目的の深部地下掘削や、資源探査を始めとする実用上の深部地下調査のための技術的基礎をなすものとして、潜在的価値を持つものと考えられる。
3.2.2 技術的妥当性及び開発の進め方
本計画の技術的妥当性については、主として1996年10月のライザー技術国際ワークショップにおける技術的評価の過程を吟味し、委員会内で議論を重ねて評価結果を取りまとめた。
ライザー技術は海底石油探査で用いられているが、この方法により科学的に価値のあるコア試料が採取された例はなく、技術的に未知の領域である。掘削対象海域の水深だけを取り上げてみても、日本自身の掘削オペレーションの経験としては水深数百mに過ぎない。世界においても、日本周辺など厳しい海象条件における水深2,500m以深の海域でのライザー掘削は未踏の領域であり、技術的に見て極めてチャレンジングな課題である。
これに対し、ライザー掘削船の建造経験に関しては、日本も海外から多くの受注実績を有しており、個々の要素技術をまとめあげるシステム化技術においては高い能力を有していると考える。このことと、ライザー技術国際ワータショップにおける2,500m級掘削技術は十分実現可能との評価結果とを考え合わせれば、今後、計画提案者が取り組んできた中核となる要素技術等の開発成果の反映、外国技術の導入等により、総合的に見て実現可能と判断される。
ただし、この大水深用ライザー掘削のためのシステムは多数のサブシステムから構成され、未知因子の多い環境で用いられる大規模、複雑なシステムである。このことを踏まえ、今後、掘削船の設計過程において、深海掘削という最終目的のために必要となるすべての段階にわたって、機能性及び安全性を検討しつつ個々の要素技術を統合していくことで、最終的に全体システムとしての機能性及び安全性を保証していくよう努力すべきである。
なお、水深2,500m級の掘削と4,000m級の掘削とは、掘削装置そのものに質的相違はないので、運航コスト上は大きな差異はないとみられる。むしろ実際の海域での掘削における運用上の技術課題が問題となることから(3.3(2)(補足事項)参照)、水深2,500m級掘削において科学的成果を得つつ運用技術を習得し、その運用データを得て水深4,000m級での運用を目指すステップ・バイ・ステップの取り組み方は妥当と考える。ただし、ライザー技術に関し、常に革新的な技術開発に関心を持って行かなければ技術の陳腐化の恐れがあるとの指摘があったことに留意すべきである。