4 流出油の処理
油は海上に流出すると急速に広がり、時間とともに拡散は緩やかになります。流出後30分ほど経過すると、拡散油の前線は、風、波浪、油の粘度の影響が大きくなり、初期拡散を終わります。初期重力拡散は位置のエネルギーが運動のエネルギーに変わり拡散しますが、その拡散は時間とともに緩やかとなり、次いで油の粘性、風、波浪の影響を受けて拡散するようになります。
このような流出油の処理は、一般に、まずオイルフェンス等で油を囲み、油回収船又は油回収装置により機械的な回収を行い、補助的手段としてひしゃく、回収ネット、油吸着材、油ゲル化剤などによる回収を併用することが基本であり、最も望ましい方法であります。
また、流出現場や流出油の状況などの事故の態様によっては、オイルフェンスと機械的回収による油の処理が困難なときがあり、このようなときには油の分散消滅を早めるため、油処理剤による化学的処理方法がとられます。
以下、それぞれの処理作業について述べてみましょう。
(1) 油回収船又は油回収装置による油の回収
近年各企業の海洋汚染防止問題に関する認識が高まりつつあるため、油回収船や油回収装置の保有数が急激に伸びています。
油回収船や油回収装置にはいろいろなタイプのものがあり、それぞれ一長一短があります。一般に静かな海面で浮流油が多い場合には有効なものが多いようですが、油の性状、油の浮流状況、海上模様等によってその性能がぐんと変わってきます。特に、油の粘度が高くなると回収不能になったり、ちょっと時化ると作業が困難になり、また、油にゴミが混じると機能しなくなる、といったものが多くみられますから、自己保有の油回収船や油回収装置の性能、長所と短所を平常からよく認識しておき、事故発生時に有効に使用できるようにしておきたいものです。
なお、昭和54年5月に海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に基づく油回収船等の配備に関する規定が施行され、総トン数5,000トン以上のタンカーが、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を航行する場合に、船舶所有者は一定の能力を有する油回収船を配備しなければならないことになっています。(107頁参照)
(2) オイルフェンスによる油のせきとめ
流出油の拡散を防ぐことは油防除作業にとって最も大切なことですが、このためには、まずオイルフェンスを展張して油を囲む必要があります。
オイルフェンスを展張する場合、よくねじれが生ずるので、うまくさばきながら展張する必要があります。ねじれたまま張っておくと、せっかくオイルフェンス内にせきとめた油がこの部分から外へもれ出してしまいます。
また、オイルフェンスは、海潮流や風が強いときあるいは波の高い海面では切断することがあります。現在、市販されているオイルフェンスには、いろいろなタイプのものがあるので、使用する場所に適したものを選ぶ必要があります。なお、オイルフェンスは取扱いが悪いと傷みやすいので、平常から点検を怠らないようにしましよう。
(3) 油吸着材による吸着回収
油吸着材は、油を吸着させたあと1枚も残さず完全に回収できるなら、最も油処理に適した資材といえましょう。しかし、油を吸着するのに数分から10数分を要することから、その間に風潮流によって拡散することが多いので、これら未回収のものが海面を漂い、航行船舶の推進器にからみついたり、油回収船のポンプを詰まらせたりすることがあります。油吸着材の使用については、回収を容易にするためオイルフェンス等で囲まれた海面内で使用するようにし、投入したものは必ず回収するようにしなければなりません。また、油吸着材の吸着効果は、油の含水量が多くなるとそれだけ少なくなるが、ある実験によると、含水量が40%くらいになると吸着率は急激に低下するという結果がでているので、油の含水量も考慮しないでやみくもにまき散らさないように注意しなければなりません。
(4) 油処理剤による処理
油処理剤による処理作業を行う場合、最も注意を要するのはその使用量であります。
油処理剤は、流出油の種類、拡散状況、現場の気象・海象状況に応じてきめ細かな散布・攪拌技術が要求されている反面、手軽に使用できることなどから油量に対してややもすると過大にすぎる量を使用する傾向がみられますので注意する必要があります。
(5) 油ゲル化剤によるゲル化回収
油ゲル化剤は、油をゲル化し、流動性をなくしたあとネット等を使って回収する薬剤で、オイルフェンス等で囲まれた海面や損傷した船舶の区画内の油の回収に効果的です。
油吸着材、油処理剤とともに、現場の海域の状況に応じ適切に使い分け、より効果的な防除作業を行って下さい。