第4編
汚染を防ぐ手だて
油、有害液体物質及び廃棄物による海洋の汚染を防ぐ手だてについては、以下本編に記すところを参考にして頂きたいと思いますが、これら物質の流出・排出の防止は、単に船舶に乗り組んでいる者が適切な作業方法をとることや作業上の注意事項を守れば良いというものではなく、当該船舶の運航にあたっている人達、たとえば船会社の海務担当者や営業担当者、荷役責任者においてもこれら物質の取り扱いなどについて、その内容を十分熟知したうえで船舶乗組員等に対して十分な指導を行うとともに、海洋汚染防止のための新しい研究・開発に努めることも必要なことです。
I 油の排出防止
1 事故を防ぐための基本的対策
油による海洋汚染の原因は、第1編で述べたとおり不法投棄によるもの、人為ミスによるもの、タンク・パイプ等の破損によるもの、海難によるものなどがあげられます。このうち海難による不測の油流出はともかく、大部分の汚染は、関係者の努力で十分に防ぐことができるものです。すなわち、故意による排出といった不法行為は、海洋汚染の防止に対する理解と法にきめられた規制措置を正しく守ることにより防ぐことができますし、人為ミスによるものは、設備・器具の入念な点検、作業手順の厳格な励行等によってそのほとんどを防げます。また、設備等の破損によるものも日頃から整備を十分に行っておくことにより未然に防ぐことが可能です。
海難によるものを除けば、流出油量が多く海洋環境や水産動植物に大きな打撃を与える油の流出事故は、燃料油の補給や移送作業中あるいはタンカーの荷役及びバラスト作業中に多いので、これらの作業にあたっては次の基本的な事項を遵守するとともに、作業を十分慎重に行うことなどにより防いでください。
(1) 作業計画等の作成
貨物油の積荷及び揚荷、燃料油の補給、タンク間の移送などの作業にあたって励行すべき手順、漏油事故防止対策を内容とした「作業計画」を作成するとともに、作業分担及び作業内容などを記載した「作業分担表」を作成し、関係者に周知徹底のうえ見やすい場所に掲示しておきます。また荷役許可証、緊急時の通報先なども同じように掲示しておきます。
(2) 作業責任者の選任
作業責任者を選任しておきます。作業にあたっては、関連設備・機器の取り扱いに慣熟した者を配置し、計画的に手ぎわよく行うことが重要です。作業責任者は、ホースの結合、送油の開始及び積切り、ホースの切り離し、その他重要な作業にあたっては自ら現場に立会って作業の指導監督にあたってください。なお海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律では、200総トン以上のタンカーについて、船長を補佐して油の不適正な排出の防止に関する業務の管理を行う“油濁防止管理者”を選任することとなっています。