(6) 廃棄物
人が不要とした物(油及び有害液体物質等を除く。)をいう。
油等を除いた理由は、油等については不要とすると否とにかかわりなく、その排出を別途に規制しているからである。
本条において「人が不要とした」とは、人が占有の意思を放棄し、かつ、その所持から離脱せしめることを意味する。したがって、例えば「汚物=廃棄物」のように物の属性として本来的に定まっているというようなものではなく、物を海洋に排出する時点において、その物が不要物としての性格を客観的に判断できるかどうかという観点から個別に定まってくるものである。
(7) 排出
物を海洋に流し、又は落とすことをいう。
MARPOL73/78条約の定義では、「排出」とは、「有害物質又は有害物質を含有する混合物についていうときは、原因のいかんを問わず船舶からのすべての流出をいい、いかなる流失、処分、漏出、吸排又は放出をも含む。」とされており、これは過失による排出をも規制する趣旨と解されている。この法律においても同様な意義であり、油、有害液体物質等及び廃棄物の排出については、過失も罰せられる。(法55-(2))
(8) 焼却
海域において、物を処分するために燃焼させることをいう。従って、燃料等のように処分以外の目的のために利用されるものを燃焼させることは、焼却には該当しない。
(9) タンカー
その貨物艙の大部分がばら積みの液体貨物の輸送のための構造を有する船舶及びその貨物艙の一部分がばら積みの液体貨物の輸送のための構造を有する船舶であって当該貨物槍の一部分の容量が200m3以上であるもの(これらの貨物槍が専らばら積みの油以外の貨物の輸送の用に供される
ものを除く。)をいう。昭和58年の改正により従来のタンカーに加えて白ものタンカー及び兼用タンカーもタンカーとして取扱われている。
(10) 海洋施設
海域に設けられる工作物で、政令で定めるものをいう。ただし、固定施設により当該工作物と陸地との間を人が往来できるもの及び専ら陸地から油又は廃棄物を排出するため陸地に接続して設けられるものは除かれている。
具体的に海洋施設に該当するのは、次に掲げる工作物である。(令1の4-(1))
(1)人を収容することができる構造を有する工作物
(2)物の処理、輸送又は保管の用に供される工作物
従って、シーバース、石油掘削塔、有人燈標、海中居住基地等のように、人が作業をしたり居住したりする工作物は、海洋施設である。また、海域に設けられた工作物であって、物の処理場、パイプラインのように輸送のため設けられたもの及び海中倉庫のように保管のために設けられた施設等も海洋施設である。
(11) 航空機
航空法第2条第1項に規定する航空機をいう。具体的には、人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機(ヘリコプター)、滑空機(グライダー)、飛行船等の機器をいう。
(12) ビルジ
船底にたまった油性混合物をいう。
(13) 廃油
船舶内において生じた不要な油をいう。従って、陸上の施設において生じたものは「不要な油」であっても、本法でいう「廃油」とはならない。
油に該当するものとしては、ビルジ、ダーティバラスト、タンク洗浄水、油性スラッジ等が挙げられる。
(14) 廃油処理施設
廃油の処理(廃油が生じた船舶内でする処理を除く。以下同じ。)の用に供する設備の総体をいう。
(15) 廃油処理事業
一般の需要に応じ、廃油処理施設により廃油の処理をする事業をいう。従って、「一般の需要」に応じて廃油の処理をしないもの、すなわち、自己の需要又はこれに準ずる特定の需要に応じるためにする廃油の処理は、廃油処理事業には該当しない。
(16) 危険物
原油・液化石油ガスその他の政令で定める引火性の物質をいう。具体的には、次に掲げる性状を有する物質である。(令1の5、令別表第1の3)
(1)温度20度、圧力1気圧において液体又は固体である物質であって、日本工業規格K2265の4.2又は4.3に適合する方法により試験したときの引火点が61度以下であるもの
(2)温度20度、圧力1気圧において気体である物質であって、当該物質と空気との混合物が燃焼する状態における当該物質の最小の濃度(爆発下限界)が体積百分率13%以下であるもの又は当該混合物が燃焼する状態における当該物質の最大の濃度と最小の濃度との差(爆発範囲)が体積百分率12%以上であるもの
(17) 海上災害
油若しくは有害液体物質等の排出又は海上火災(海域における火災をいう。)により人の生命若しくは身体又は財産に生ずる被害をいう。
なお、「海域」及び「海洋」についての定義はないが、海域とは海のひろがりをとらえた概念であり、その範囲は、海面及びその上下に及び、海洋とは、海水、水産動植物、海底地形等を含んだ実存する海そのものをいう。海域及び海洋の範囲は、社会通念上海とみなされているところであるが、具体的には、陸地との境界は最高満潮線をその接点として考えるのが適当である。