<「三三制」の概要>
「三三制」とは、工鉱業分野の国有企業労働者を3分割し、3分の1を本業へ、3分の1を農業へ、3分の1を経営の多角化へ振り向け、本業でのリストラを推進し経営を立て直すと同時に、余剰人員を農業生産(荒れ地の開墾など)と第三次産業に振りり向けることで、労働者の生活を安定させ増収をはかる政策である。実施されている主な分野は、鉱業(石炭)・森林工業・軍事工業・紡績・製糖など経営危機が進行している業種で、同省の国有企業の約5分の1(労働者ベース)が該当する。
「三三制」実施に伴う雇用制度改革の特徴としては、次の3点があげられる。第1の特徴は、幹部(管理職)制度改革の実施である。管理職にノルマを設定し、部署を削減することにより、管理職の大幅減員を実行している。第2の特徴は、賃金制度改革を実施し、現業職の賃金を引き上げている。第3の特徴は、現業での農協工(農村からの臨時契約労働者)の大幅削減と、本工員の現業への投入である。
また「三三制」では、大量の余剰労働者を荒地の開墾に投入することになるが、その労働者の配置転換と、農業経営に必要な土地および資金は、次の4つのレベルで提供・支援されている。第1は、地方の各級党委・政府機関である。黒龍江省党委および省政府は、100万ムーを供出することを既に決定しており、1ムー当たり100〜120元、条件の悪い土地は更に安く提供している。第2は、各企業の主幹部門である。石炭産業主幹部門では、同制度に2億元の利子割引借款を決めた他、軍需産業主幹部門でも資金提供を決定している。第3は、各企業の自助努力である。企業資産を活用した銀行などからの借り入れ、他企業との合作により資金の導入をしている。そして第4は、個人の自助努力であり、これには現金と株式による資金集めの方法が行われている(注34)。
(8) 社会保険および最低生活保障制度の改革
国有企業改革を促進するためには、これまで企業単位で負担していた社会保険制度を社会化していく過程で、政府と企業そして個人の応分の負担による新しい社会保険制度の樹立が必要不可欠となる。この行政単位での新社会保険制度が実現されなければ、増大する失業者に対する保障ができず、企業内余剰人員のリストラも推進されず、いたずらに政情不安を増大することになる。従って、現在中国では国有企業改革の補完的環境整備政策として、行政単位での社会保険と社会保障制度の整備が急務となっており、1984年から改革が実施されている。特に93年には、中国共産党第14期中央委員会第3回全体会議で提出された「中共中央の社会主義市場経済の確立に関する若干の決定」により、社会保険・社会救済などの重層的な社会保障システムの整備が重要政策として位置付けられて以降、社会保険制度は政府・企業・個人の応分負担による整備が促進されている。これにより、国有企業の労働者に対する社会保障負担を軽減し、経済収益と競争力の改善を計ることが重要な目的となっている。
社会保険制度は、主として養老保険・失業保険・医療保険の3つより構成されている。この中で最も整備が進んでいるのが養老保険であるが、同保険の掛け金は、従来全額公的負担となっていたが、1991年の国務院の「企業職員労働者の養老保険制度改革についての決定」により、国家・企業・個人の共同負担に変更する実験が開始され、95年の国務院による「企業職員労働者の養老保険制度