それでは、この訓練の様子をここに紹介します。
一 『出前は訓練、メニューは消火器、スパイスは一口広報で決まり!』
豊中市は大きく分けて、北東部に広がるニュータウン的な新興住宅街と、中央部から南西部にかけての古い町並みが残る庶民的な住宅街とに大別されます。
後者の庶民的な住宅街の中央部には、私鉄線が南北に走り、その駅前通りには縦横無尽に商店街が拡がっていて、この商店街の各店舗が、我々予防広報マンの出前先。
「こんちはー。毎度、消防です。」
「消防さん、なんぞありましたんか?」
「ちょっと、消火器の使い方を出前させてもらいに来ました。」
「あっ、そうゆーたら、何か回覧、回ってきてましたわ。それは、それは、ごくろーさん。」
と、店のご主人。
片手に消火器、片手にのぼりを持って、胸には何かしらタスキを掛けた制服姿の男性が消火器の出前とか何とか言って、突然店に入って来るものですから、すぐにピンとこないのも無理はありません。消防署の方から来た、消火器の販売業者とでも思っているのでは・・・・・・。
中でも特に入念に指導するのは、直接火を使うテンプラ屋さんとか弁当屋さん。この種の店では、図々しくも奥の奥まで入り込み、その厨房内で消火器の取扱い方を手取り足取り指導、それでも、ほとんどの店の人には、好意的に受け入れてもらい、こちらの熱意が伝わったのか、商売そっちのけで真剣に訓練を受けてもらっている。
「消防さんもたいへんやなー。せやけど、ほんま、ええ勉強になりました。」と、帰り際にこんな暖かい声を掛けてもらうと、俄然元気が湧いてくる。
一軒一軒訪問し、マン・ツー・マン的かつ、相手と同じ目線で対応することで、こちらの熱意が伝わる『ザ・出前訓練』。人と人との触れ合いが基本となる訓練指導の醍醐味が、そこにある。
そして、結果的には対象が店舗の人々だけにとどまらず、商店街を行き来する買物客や通行人にまで、その範囲を拡げるかたちとなって展開することになる。この人々も「何かやっているぞ。」と言っては集まり、我々予防広報マンにとっては大事なお客さん。そこで取り出すのが何か怪しげな紙袋。中身は何のことはない、ただのティッシュ、新聞整理袋、洗濯バサミなどの生活用品の広報グッズである。しかし、これが奥さん達にはなかなか好評で、ついつい足を止め消火器の取扱説明を聞いていただくことに。もちろん、このグッズには、広報文をプリントしており、配りながらも一口広報は忘れてはいない。
そんなこんなで、約二時間程かけて一〇〇軒前後の店を回ったわけですが、あといくつかある商店街もすべて出前に行く計画である。
おわりに
このように、我が豊中市消防本部では、火災予防運動行事の一つとして実施した『ザ・出前訓練』を紹介したが、今後も基本的には、通常の訓練指導のようにお客様としてまた、講師として高い所から話すのではなく、こちらから積極的に働きかけるかたちで、しかも相手側と同じ目線に立ち、マン・ツー・マンで対応したいと考えている。そんな意識を持ち、人と人との触れ合いを重要視することで、より中身の濃い充実した訓練になると考え、こういった予防広報活動も実施し、火災予防運動の効果を上げたいと考えている。
(井上 誠)