「俺達は何も特別なことをやっているのではない。傷病者の気持ちを第一に考え、自分が出来ることを、確実にやっているだけだ。」
「畠中、女性のおまえにしかできない事があるんじゃないのか。」
この言葉は思い悩んでいた私の心に一つの光を与えてくれたのです。
「女性の私にしかできない事」それは、女性の優しさを活かし、苦しんでいる傷病者に、少しでも安らぎを与えること、より心の通った温かい救急活動ではないでしょうか。
それから何日かたったある日、現場に着くと、二〇代の女性が下腹部を押さえてまっ青になっていました。救急車に収容し、若い女性という事で私が傷病者の容態を観察するように言われたのです。初めての事、苦しんでいる傷病者を目の前にしてあの日の言葉を思い出し、「私にできることをしなければ」「私がこの人の立場だったら、何を今望むだろう」私は勇気を出して話しかけました。
「大丈夫ですか、どんな痛みですか。どのあたりですか、ちょっと触らせてください」
同じ女性として、男性から体を触られるよりも私が診た方が恥ずかしくないと思ったからです。無事に病院に到着し、引き上げようとした時、ベッドの中から、か細い声が聞こえました。
「ありがとうございました。あなたが女性で良かった。」
私は嬉しくなり、「お大事に。」と言うと、今までにない気持ちが込み上げてきました。
そして私は、感じたのです。
「これだ、私の目指す救急は!」
救急現場では傷病者が全てです。救命という使命感の中で置き去りにされやすい「優しさ」を基本にした救急、傷病者のサイドに立った傷病者の心の叫びを観ることのできる活動を目指すのです。男性と女性が互いに足りない部分を補い合い、協力しあってより良い救急活動ができればいいなと考えています。
厳しい救急、されど優しい救急。
そして、いつの日か女性の救急隊員がいて本当に良かったと言われるように一生懸命頑張ります。
─みんなの幸せのために。─
発表者インタビュー(発表順・敬称略)
1] 出場した動機は
2] 発表で最も訴えたかったことは
3] 発表を終えてひと言
4] この発表体験をあなたの将来にどのように活かしたいか
○ ※発表者本人のご要望により氏名は非公開とさせていただきます。
東京消防庁(関東) 勤続四年
1] 「分娩」というなかなかめぐり合えない事例で感じたことを発表してみたいと思いました。
2] はじめて「いのち」に触れたと感じられた感動を、伝えたいと思いました。
3] あれほど大きなホールで、大勢の方々の前で意見を発表するのは、とても緊張しました。とても貴重な経験をさせて頂いたと思います。
4] 救急隊員として間もないこの気持ちを忘れずに、これからも都民に優しく接することのできる救急隊員でありたいと思います。
○ 平野 重樹(二四歳)
盛岡地区広域行政事務組合消防本部(東北) 勤続五年
1] 火災現場で体験した耳の不自由な少女の救出を通じて、特に災害弱者を災害から守るための私の意見をぜひ、発表したいと思い出場を希望しました。
2] 災害発生後の迅速な人命救出に、災害弱者の存在を知らせるシールの必要性を強く訴えたいと思いました。
3] 全国大会の素晴らしい舞台に立つことができた嬉しさと、これまで御指導、御協力いただいた方々への感謝の気持ちでいっぱいです。
4] この度の貴重な体験を財産として、これからの消防業務に、より一層積極的に取り組んで行きたい思います。
○ 角田 昌寛(二六歳)
名古屋市消防局(東海)勤続五年
1] 私が救急隊員として初めて出動し、一番強く感じたことを、たくさんの人に聞いてほしかったからです。
2] 患者に安心感を与えるのは迅速な行動と応急処置、そして患者の苦しみを理解したうえでの救急活動すべてであるということです。