「驚いたなぁー。煙の中って、何にも見えなくなるんだね。」
これは、いつもの消防訓練よりはるかに遅く避難してきた男性の言葉です。今までの訓練では、誘導灯を目印に避難していたようですが、今回は煙が濃かったようで全く見えなかったそうです。
「消防士さんは『避難するときは、姿勢を低くして!』と言うけど、出口にある誘導灯。あんなに高い位置にあるから見えなくなっちゃうよ。」
その男性は私をにらんで言いました。けれども、その時の私は、
「誘導灯の位置は法律で決まっているのだから…。」くらいにしか思えませんでした。
しかし、よくよく考えてみるとその男性の言うことには一理あります。確かに、煙が充満している中は、涙が出て目を開けているのは簡単ではありません。まして腰をかがめて避難すると、一・五メートル以上の高さにある避難口の誘導灯を見るのは至難の技でしょう。点滅式の誘導灯もありますが、下を向いて避難していたら、効果があるとは言い切れません。
「これでは誘導灯の意味がないのでは?」
消防設備の設置を指導している私は、あの男性から『本当の消防設備の意味とは何か』を考えさせられたのです。消防設備は、人の命を救い、火災による被害を最小限に食い止めるものです。しかし、その他にもう一つ、重要な事を意味していたのです。
それは、消防設備を通じて、防災に関心をもち『火災を予防しよう』という気持ちを持ってもらうことです。そのためには、設備を