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おもしろそうだと単純に考えたんです。だから、今から考えれば、ぼくの場合はもっぱら経済効率からはじめた在宅医療で、正直にいって、家に帰る人のお手伝いを一生懸命したいとか、町の赤ひげ先生になりたいという思いは、それほどありませんでした」

本人いわく、「もともとはモラトリアム人間」という英医師。慶応大学の商学部を出たあとに、二六歳で千葉大の医学部に入り直したという異色の経歴の持ち主。しかも、ふつうの医者にはなりたくないと、卒業後、病院には残らなかったというから、医者としては変わり者の部類に入るだろう。だが、そういう人だからこそ、逆に、新しい医療分野へも臆せずにチャレンジできたのだろうし、独自に道を切り開いて、今や、在宅医療のシステムづくりにまで取り組みはじめている。商学部で学んだビジネス感覚がいい意味で生かされたというべきか。

 

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坑がん剤を拒否し、在宅での治療を続ける末期がん患者を診る英医師。今日はたまった腹水を抜く処置を行う。在宅の患者を診るということは、その生活のすべてと関わりを持つことになる。

 

今の英医師を見る限り、「モラトリアム」の面影はどこにもない。何が彼を変えたのか。

「ぼくがこの仕事をはじめていちばんよかったと思うのは、へんないい方ですが、人の死をたくさん見られたこと。死に際の姿を見ていると、生きることの意味を考えさせられます。人は若いうちはいろんなものを得ながら生きていますが、老いるというこ

 

 

 

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