スーツ姿にアタッシュケース、胸ポケットには携帯電話。どこかの商社マンかと思わせるような軽いフットワークで、街を縦横無尽に走り回る。彼の職業は、実は医師である。それも、現在の医療分野ではまだ数少ない在宅専門医だ。96年10月に東京都新宿区に、弱冠35歳にして『曙構内科クリニック』を開設して以来、今日まで24時間365日体制で、在宅で暮らす患者たちを診続けてきた英裕雄医師。この1年半に彼が見てきた在宅医療の現実とは、そして、彼がめざすものとは……。
取材・文/城石眞紀子
死を前にして、何も語らない人がいる。ただボーッと宙を見つめ、痛みも苦しみも悲しみも寂しささえもないように見える。「何を考えているの?」と彼が聞くと、ちよっと驚いたようにこちらを見るが、