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福祉の現場にいる人間だからこそ行政の福祉サービスの限界が見えた

実は、井上さんは地元宮代町の「福祉課長」という肩書きも併せ持つ。こうした行政の"現役"が、個人的な立場でとはいえ、市民互助型団体の代表となったのは、ほとんど例をみないのではないか。井上さんは、果たしてどんな思いから、『ハートフル・みやしろ』を設立したのだろうか。

「福祉の仕事に長年携わってきて感じたのは、行政という枠組みの中では、どうしても、できることに限界があるということでした。たとえば、一人暮らしのお年寄りなどは、食事を作りに来てくれたなら、一緒に食事もしていってほしい。それが楽しみなのですが、行政のヘルパーさんは、立場上、それはできない。というのも、一人がちょっと手を出してしまったら、次に行った人にも同じこと、あるいはそれ以上のことを要求されるわけで、それを断ると、"前の人はやってくれたのに"と、不満や不公平が生じてしまうから。また、買い物にも一緒に行ってほしいという要望も、買い物ができない人に対して代わりに行くのが仕事で、できる人は自分で、というのが、行政のスタンス。もらろん、基本的な福祉は行政がきちんと実施すべきものでずが、高齢社会を迎え、今後、ますます福祉サービスに対するニーズが質・量ともに増大していくことを考えると、すべてのニーズに行政が応えていくことは実質的には不可能。ならば、心の交流などの部分はむしろ、住民同士の助け合いという形の方が適しているのではないか、いや、絶対に必要なのではないかと、強く感じるようになったんです」

 

 

 

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