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■ 正常な競争原理が自治体に働くか

介護保険法案が国会で成立する直前の昨年一〇月に日本経済新聞が発表した調査によると、地方自治体の約八割が、介護保険の実施に及び腰ないし反対だった。確かに介護保険の仕組みはまだ不十分で欠陥もある。だが、いったん決まったからには、住民の立場で、よりよい制度に仕上げる準備に取り組むことこそ自治体の責任であろう。「欠陥を見据えたうえでよりよい制度をつくることが必要」(高橋信幸三鷹市年金保険課長)なのだ。

「ユニット」は、「国や県がなんとかしてくれるだろう」と逃げ腰にならず介護保険のメリット、デメリットを勉強する場でもある。たとえば、一般市民にはあまり知られていないことだが、公的介護保険は高齢化が進み財源が乏しい自治体にとって有利な制度なのである。簡単にいえば、介護基盤の整備に真剣に取り組もうとするならば、高齢化率の低い自治体の保険料から、必要な資金が回ってくる仕組みになっているのである(参照)。

それにもかかわらず、大多数の自治体が、介護保険が実施されたら財政負担に耐えられないと抵抗してきたのはなぜか?多くの自治体は「介護の社会化を進めるためのお金を与えられても、どのように活用していいのかわからないからでしょう」と岡本祐三神戸市看護大学教授は指摘する。土建自治体から福祉自治体へ脱皮しようという意欲に乏しく、脱皮するための知恵もない自治体が多数派を占めているのが日本の現実だ。

介護保険法によれば、介護保険を実施、運営する責任は市町村が負うことになっている。ということは「全国に三二〇〇もの介護保険会社ができるようなもの」(田中尚輝長寿社会文化協会理事)。だとすれば、住民にとって自分が住む市町村によって高齢者福祉の質と量が、よその市町村と比べてよかったり悪かったりすることになる。そうした地域格差の発生が介護保険の問題だと主張する識者もいるが、自治体間の福祉競争によって結果的に地域格差が出ても仕方ない。「ユニット」代表幹事の一人である光武佐世保市長は、「真の民主主義は自由競争によってレベルアップする」と反論する。

 

 

 

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