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シート99

 

「内規は存在しない」

 

A市の建築確認課は、建築物が建築基準などを満たしているかどうかを確認し、その建設の許可・不許可を決めることを主な業務としています。

・ある日、環境問題を専門にするNGOから、市の広報課に対して、工場建設を許可する場合の環境基準の内規について開示要求が出されました。建設許可基準の大枠は、条例により定められていますが、環境問題は比較的新しい問題でもあり、環境基準については条例に定められていません。そのNGOは、各地方公共団体の建築許可に対する環境基準について調べ、それらを比較することにより、具体的な提言をしようとしているらしいのです。

A市では、情報公開は制度化されていませんが、市民から情報開示の請求があった場合には、できる限り公開に努めるという方針を有しています。そして、情報公開の窓口が、広報課です。

広報課の担当者から情報開示の請求があった旨聞いた、建築確認課の堀口係長は、宮本課長とどう対応したものか、検討していました。

「課長、どう対応しましょう。環境基準の内規があることにはありますが、必ずしも内規どおりに運用していたとは言えませんし、新たな環境要因がいろいろと取りざたされ、この内規も完全なものとは言えません。まだ、情報公開が制度化されておらず、開示する義務はないわけですから、内規は開示できませんと言って、断りましょうか。」

「君、そんなこと言ったら、環境基準の内規があることがバレてしまうじゃないか。内規があることがわかったら、なぜ、開示しないのかとか、いろいろとうるさいぞ。また、内規の内容が外部に知られたら、その内規と今までの建築許可との整合性を問われることになるし、今後の建築許可についても我々の裁量の範囲が狭められてしまうぞ。内規はありませんと答えておけばいいだろう。NGOは、うちだけでなく多くの市に情報開示を要求しているようだから、情報を開示した市にNGOの関心が向けられて、うちには関心が向けられないだろう。」と宮本課長は述べました。

翌日、堀口係長は、広報課の担当者に、開示請求の対象になっている環境基準の内規は存在しない旨回答したところ、その担当者は、

「本当に内規はないのですか。内規なしに、一体どうやって環境基準について判断しているのですか。もし、その辺について聞かれたら、建築確認課の方で対応をお願いしますよ。」との反応だった。

堀口係長は、やや興奮気味に、

「内規はないと言っているだろう。内規がなくたって、1件1件、適正に判断しているんだから、何の問題もないだろう。それに、建築申請もしていないNGOへの説明なんかは広報の仕事だろう。そんな仕事を原局に持ち込まないでくれよ。」と反論したのでした。

(議論のポイント)

・建築確認課の対応について、どう思いますか。

 

 

 

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