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シート76

 

「割り勘で一杯」

 

荒井係長、松田君、それに、現在進行中のある事業について、かなりの部分を請け負わせている業者との打合せが、昼過ぎから始まって6時ごろやっと終わった。その後、荒井係長は松田君に、

「お腹がすいただろう。一緒にめしでも食おうじゃないか。どこかいい店知らないかね」と誘った。

すると、それを横で聞いていた業者が、

「私もご一緒していいでしょうか。いい店にお連れしますよ。」と割り込んできた。松田君は少々ためらいの表情を見せたが、荒井係長は、

「そうか、それはいいね。でも、割り勘だよ。松田君、君の分はぼくがおごってやるから一緒に行こう。」と応えた。

割り勘ならと思い、松田君は係長に連れられて、業者と料理屋へ行き、雑談しながらビール少々と夕食をとった。帰りの会計は、割り勘ということで、我々の分は係長が払っていた。帰ろうとすると、業者が何か袋を差し出して持って帰れと言う。

「これは困ります。」と松田君は断ったが、

「いや、さっきここのおかみさんからもらった魚の干物ですよ。」と業者は言い、

おかみも、「はい。これからもよろしくごひいきにしてください。」と言っている。

係長も「そのくらいならいいだろう。私も家に持って帰るからく君ももらっておけよ。」と、口を添えるので、断っても失礼かと思い、もらって帰宅した。

この料理屋がわりに感じの良い店だったので、松田君はその後数日して同僚数人と勤務の帰りに寄ったところ、偶然先日の業者が先に来ていて一杯やっているところだった。目ざとく松田君を見つけた業者がやって来て、

「先日は大変お世話になりまして・・・。では、ごゆっくり。」

と丁寧にあいさつをしていった。

松田君たちは、それから1時間ほど飲み食いして、帰りに勘定をたずねると、ちょっと安い。「何か落としてないか。」と松田君は念を押したが、「いいえ、大丈夫です。」とおかみが答えるので、勘定どおり払い、帰宅した。

ところが、翌日念のため飲み食いしたものと、勘定とを付き合わせて考えてみると、どうも日本酒何本分かが抜けている感じである。「さては業者が差し入れたかな。」と心配になったものの、「まあいいか。黙っていれば誰にもわからないだろうし、別に業者に便宜を図ってやったわけではないし」と自分を納得させていた。

(議論のポイント)

・荒井係長及び松田君の行動には、どのような問題があったか。

 

 

 

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