次に、こうして訓練段階を終えた蠅を、上記の実験装置に入れる。ただし、今度はメチルシクロヘキサノールを塗ったチューブCには砂糖水は塗らない。また、各チューブの背後から光をあて、光に向かう蠅の習性を利用して、蠅が入っている空間の位置がチューブに合わさると、蠅がチューブに入り込むようにする(実験段階)。
この実験の結果、空間の位置がチューブB、Cに来たとき、より多くの蠅がチューブCに入った。蝿は、オクタノール又はメチルシクロヘキサノールの匂いに対する好き嫌いはないので、チューブCに多くの蝿が入るのは、蝿が訓練により、メチルシクロヘキサノールの匂いと砂糖水との間のプラスの条件付けを学習したものと推定される。
同様の実験を今度は砂糖水の代わりに電気ショックに置き換えて行った。つまり、訓練段階において、チューブCにはメチルシクロヘキサノールを塗るとともに、電気ショックを蠅に与えた。すると実験段階では、もはや電気ショックは与えられないにもかかわらず、チューブBにより多くの蠅が入った。つまり、蠅は訓練により、メチルシクロヘキサノールの匂いと電気ショックとの間のマイナスの条件付けを学習したのである。
なお、上記の蠅の2つの学習効果は、そのスピード及び効果の持続の点で異なっていた。すなわち、プラスの条件付けの学習に要した時間(つまり訓練に要した時間)は100分であったのに対し、マイナスの条件付けの学習に要した時間は30分であった。
また、プラスの条件付けの学習効果が持続する時間(砂糖水を塗らなくてもチューブCを選び続ける時間)は24時間であったのに対し、マイナスの条件付けの学習効果の持続時間は4〜6時間であった。
この実験結果は、蝿がある行動を取ったときに罰を与えた場合には、褒美を与えるよりも、より早くその行動を学習するようになり、一方、ある行動に対して褒美を与えた場合には、罰を与えるよりも、その行動をより長く取り続けることを意味している。