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シート37

 

「あるリーダーシップ」の手引き

 

1 山本課長の対応

 

課長の対応中、問題だと思われる点としては次の点があげられる。

(1)総合プランの作成をいきなり指示したこと

総合プランを作成すること及びその構想案を部下に考えさせようとする課長の方針は正しい方向であった。しかし、その作成指示の方法が誤っていたことから、期待どおり進まなかったと思われる。

すなわち、総合プランの作成を課長一人で決定しているが、課員にその必要性を十分に認識させ、課員がその作成を提案するという方向が望ましかったと思われる。そのためには、もっと早い段階からあらゆる機会を通じて認識の浸透を図る努力が必要であった。少なくとも総合プラン作成の是非そのものについて、課員と十分議論すべきであった。

また、課長は新規構想の作成を指示しているが、現況ではそうした新しいアイデアが生み出されるような職場環境が整っていたかどうか疑問である。総合プランという課の業務の基本をなす事項について、いきなり創造性を発揮せよといっても、課員はとまどうだけであろう。創造性に富んだ職場環境を醸成するためには、日常的な業務遂行に対する改善案の提出など日頃からの地道な環境作りが必要である。

 

(2)川田係員の計画案を受け取ったこと

創造性は職制を通さないときに生まれることも多い、という考え方そのものは正しいが、職制を通さないアイデアが活かされ、具体的な成果に結びつくには、課内に職制にこだわらずにアイデアを出すことを当然とするムードがなければならない。現在の職場はライン的志向が強く、まだその条件が整っていないのに、創造性発揮の原則論を面と向かって言われたのでは係長達は苦しい立場に追い込まれてしまう。係長より川田係員の方が能力に優れていると言われたのに等しい。

この段階では、川田係員の熱意や着想をほめて以後の励みとするが、案そのものは差し戻してラインを通させるのが妥当であったろう。また、困った立場に置かれた西本係長とは、時間を作って十分話しあって、教育したり、不満を解消してやる努力が必要であった。

 

(3)課長案を会議に諮った上、具体的な計画を自ら作成し、指示したこと

会議に参加させたから参加型管理であるとか、民主的な決定と考えるのは、参加型管理の本質を見誤っている。意思決定に実質的に関与しなければ参加とは言えない。

課長案は、基本的に優れているものであろうが、ラインを中心に仕事をしているところでは、課長案に容易に異を唱えられるものではない。このようなやり方では、課員は参加意識を持つことができないであろう。

 

 

 

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