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それから2週間が経過した。その間の2回にわたる係長会議では、定常的な業務報告は活発であるが、来年度の計画のことを切り出すと、各係長とも回数が少なくなって、目下検討中ですという答えだけが返ってくる。

3月中旬のある日、山本課長は、帰りの電車で高校の後輩である工務係の藤田係員と偶然一緒になったので、それとなく計画案作成についての課内の反応を聞いてみた。藤田係員は、やや遠慮がちに西本係長と川田係員のやりとりが他の係にも微妙な影響を与えていること、そしてそのために、なかなか案がまとまらないでいることを話してくれた。

このような状況を勘案した課長は、3月18日の係長会議の席上、次のように発言した。

「かねてお願いしていた来年度計画のことだが、どうも係ごとに案を作るのはなかなか難しいように思う。そこで、私に一つの案があるので、それを基にして皆に自由に意見を言ってもらうような形で進めてみることにしたい。」

そして、その場で係長会議を課員全体の会議に切替えた。課員の出席のもとに開かれた全体会議においては、冒頭に課長案が示された。課長は全員の活発な意見を求めたが、期待に反して意見はあまり出ず、内容の質疑応答的なやりとりに終始した。結局は課長案了承の形で会議は終わった。

時期も迫ってきたし、皆の創意に疑問を持った課長は、数日後、原案に基づいて細部にわたる具体的な実施計画を決定し、各係ごとに指示を与えた。山本課長は、川田案を正面きって取り上げなかったこと、計画案作成のプロセスを途中で変更したことは、現状からみてやむを得ないこと、また、全体会議で意見を聞いており、民主的にことを運んだと考えていた。

ところがこのこと以来、課内に何となくよそよそしい雰囲気が漂い始めたようであった。それを人一倍敏感に感じ取った課長は、こうした空気を和らげるため、何かにつけて親睦会を開いたり、職場での雑談を増やしたりして、感情的なしこりの解消に努めた。課長の努力が効を奏してか、課内の感情的違和感は次第に緩和され、元のように仲の良いチームに戻っていくように見えた。

しかしながら、課長が当初期待したような業務改善への積極的な活動は、ほとんど見られない。課長はあたたかに復元していく課内の空気を感じて内心ほっとしながらも、一面何か割り切れないものを感じ続けている。

(議論のポイント)

・山本課長の対応のしかたにはどのような問題があると思いますか。

・部下の創造性を高めるには、監督者はどのような方策を取ることが望ましいと考えますか。

 

 

 

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