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シート36

 

「あるリーダーシップ」

 

事業部計画課は、計画、工務、設備、庶務の4係で構成されており、職員数は、計画係5名、工務係6名、設備係4名、庶務係4名と課長の計20名である。現職2年目を迎えた山本課長は、就任当初から、計画課の業務の基本となるべき総合的プランが確立されていないことに強い不満を抱いていた。

1月20日、週1回の係長会議の席上、山本課長は次のように発言した。

「どうもうちの課の状態をみると、忙しく次々と仕事をしてはいるが、場あたり的にその日その日の仕事を予算に合わせてこなしているだけで、その意味や効果を抜本的に反省し、改善を加えたり提案をしたりすることがほとんどないように思う。だが、計画課の大切な仕事の一つに、そうした新しい構想の研究、開発があることを忘れてはいけない。幸い今年は、例年になく来年度の予算の見通しが早くついた。そこで、みんなで来年度の計画を自由な角度から十分考えてみたいと思う。」

そして、山本課長は、来年度、課のやるべき仕事の大まかな範囲、時期、予算などを示し、あとは各係ごとに自由に独自の構想を立て、来年度計画を提出するように指示した。

それから2週間経った。その間、各係長から現在の実施業務の進捗状況の報告は種々あったが、来年度計画については報告がなかった。山本課長も気にはなっていたが、アイデアは催促して出るものではないと思い、職員の自発性に待つ状態のまま日が過ぎた。

2月17日、山本課長が帰り支度をしていると、計画係の川田係員がやってきた。川田係員は採用になってすぐ今の職場に配属になり、5年間計画の仕事に携わってきた。研究熱心でやや職人気質的なところがあったが、積極的に仕事に取組む意欲の旺盛な職員であった。このような川田係員と、着実ではあるが現状維持的な西本係長とは、ときに意見の食違いが生ずるのか、二人が強い口調で論争しているのを、課長は今までに何回となく目にしていた。

川田係員は、「これは私案ですが・・・」と断って、一つの基本計画案を提出した。課長がその案を一読してみると、新鮮な発想が随所に見られたので、着想をほめて、「自分も良く検討するが、計画係長とも十分相談するように」と話した。

2月19日の朝、課長が出勤すると、顔をやや紅潮させた西本係長がやってきた。

「昨日、川田君が計画案を持ってきて、これはもう課長に提出ずみだと言うのです。係長である私の知らない案が係員から出されて、それを課長が良い案だと言われたのでは私の立場がありません。」

日頃温厚な西本係長としては、かつてない激しい口調であった。

「たしかに君の言うことはもっともだ。しかし、改善案や新しいアイデアなどは、職制を通さない場合に生まれることも多いものだ。まあ、そうむきにならないで、もう一度川田君と良く話し合ってみてくれないか。」

課長がそこまで言ったとき、約束の来客が入ってきたので話が切れてしまった。西本係長は更に何かを言いたげであったが、黙って自席へ帰っていった。

 

 

 

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