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シート4

 

「人気取り政策はごめんだ」の手引き

 

大臣などの政治家と身分的安定を有し、専門性に基づき職業として公務に従事する職業公務員との関係は、国によって異なります。ここでは、国民が主権を有し、その国民が選挙により立法機関のメンバーや行政の首長を選ぶ、民主主義を前提として論じることにします。

民主主義における政治家と職業公務員の関係は、国民から直接選ばれている政治家が政策の決定を行い、職業公務員は政策の決定を補佐し、また、決められた政策を実行するという関係が基本と言えます。ところが、本件では、職業公務員がどのような政策が望ましいかを自ら判断し、その判断に合致しない政治家の意図に対して、情報を操作することにより、意図の実現を妨害しようとしています。

政治家が考える政策について、客観的にすべての情報を提示することが職業公務員の役割であると考えられます。情報を提示する際には、職業公務員が認識する政策上の問題点も含め、率直に政治家に開示することが大切です。本件のように、職業公務員が最も望ましいと考える政策を政治家が選ばざるを得ないように、情報操作することは、官僚の役割を越えていると言わざるを得ません。

山本局長や安川課長は、自分たちは専門知識・情報が豊富で、長年この問題に取り組んでおり、何が正しい政策であるかを知っているが、大した知識もなく、短期間しか従事しない大臣は正しい政策の選択能力に乏しいと考えていることが窺われ、これは職業公務員の陥りがちなおごりと言えます。

また、このケースでは、正確な比較が困難であるとして、運用益利率の情報を割愛しています。正しい情報提供のあり方とは、誤解を招くおそれがあるとして、ある程の情報を開示しないことではなく、すべての情報を提供し、その情報に基づき相手が誤解しないように説明することです。どのような判断が下されるかは、どのような情報を提供するかによるところが大きく、ある情報を提供しないということは、それだけ相手の判断の幅を狭めていることになります。実際、正確な比較が困難、相手に誤解を与えるというのは口実に過ぎないことが多く、この情報を説明すると自分たちに都合が悪い、又は適切に説明する自信がないので、説明したくないというのが本音である場合が多いようです。

さらに、大臣だけでなく、国民にも情報を開示し、より多くの人々の知識・意見を取り入れることにより、情報の正確さを高め、より適切な判断を導くことが可能になります。そして、どのような情報に基づき政策判断がなされたかを明らかにすることにより、政府の恣意的な判断が防止されるのです。

 

 

 

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