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本研修教材のねらい

 

「人材育成」。この言葉ほど人事管理において耳心地がよく、その重要性を誰もが認める概念はないでしょう。特に、公務は、成果物が商品といった物質ではなく、テクノロジーに依存する割合も小さいため、公務の善し悪しは、公務を担う公務員の質が決めると言えます。そして、公務では、長期雇用が基本となっている国が多く、その場合、いかに内部職員の質を向上させるか、つまり、人材育成が重要になります。

一方、人材育成はいかにあるべきか、公務員の質を高めるにはどうするべきか、どの政府もその答を求めて、模索しているというのが実状でしょう。よりよい人材育成に唯一正しい方法があるわけではなく、様々な手法・機会を利用して、育成に努めることが、正しいあり方であると考えられます。そして公務員の育成ツールの一つとして、「信頼される公務員」になるための研修教材を提供することが本書の目的です。

「信頼される公務員」になるには、公務員としての基本的な行動規範を身につけることが重要で、本研修教材は、公務員としての自覚、部下の育成、公務員の倫理観などのテーマを中心に組み立てられています。今さらこんな基本的なテーマを研修する必要があるのかという疑問があるかも知れません。しかし、このような基本的事項を知識として知っていることと、それらを行動規範として実践することとの間には、相当の距離があり、公務への信頼は、いかに一人ひとりの公務員がこれらの基本的な事項を自らの規範として行動しているかにかかっていると思われます。本教材は、これらの基本的事項を紹介し、それらを各人の行動規範として身につけてもらうことを目標にしています。

公務員としての自覚、倫理観などは、各国の統治形態、政治体制、文化、宗教などにより異なり、各国共通の教材作成など不可能ではないか、ましてや、これらの理念を内面化し、行動規範にまで昇華するのは困難ではないかという意見もありましょう。しかし、たとえば効率的な公務遂行とは、より少ない資源でより大きな効果を達成するという方法論であり、各国の国情の相違はそれほど重要ではありません。個人の倫理観は、国情のみならず、私生活を含め、個人を取り巻く状況すべてが影響しますが、公務員倫理とはそうした個人差を超越して規律を求めるものと言えます。

なお、本教材には我が国固有の状況に基づく内容も含んでいますが、各国共通の教材とは、各国の事情をすべて切り捨てることではなく、各国の異なる視点も提供する教材であるべきとの考え方から、あえて日本特有の状況に基づく内容も含めた次第です。

 

 

 

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