複数の州で協力して経済開発による雇用創出への1次的、2次的効果、どのような行政ニーズが生じてくるか等についての調査を行えば、インセンティブに関するより精緻な情報をえることができよう。複数の州がプロジェクトに対する共通した情報、理解を得ることによって無駄な競争も避けられるはずである。
全米州議会議員協議会・全米知事会が強調するのは、州間の競争は州税制の近代化を阻害するので、州が租税政策において強調し、その統一性を高める必要であるという点である。OMB(Office of Management and Budget;大統領府行政管理予算局)の副局長Rivlinも、州が課税ベースを同じくする共通の州税を複数設けて、州間競争を減少させるべきであると論じ、さらに、連邦と州政府との役割・責任の再配分の一環として、共同税(shared tax)を提案している。Rivlinの研究が指摘するように州が協力して政策決定を行い、統一的な税制を設けることが州間の競争を少なくし、州税制の長期的な安定性、普遍性を実現する方途である。
(4)主要州税の課題と改革の基本的方向
1]売上税と利用税
州売上税は州税制の基幹税であり、州税収に占める割合は1960年代初めには2割台前半でしかなかったのが、90年代には3割強となっている。しかし、多くの州では売上税は極めて重要な構造的な問題を抱えている。最も深刻な問題はその所得弾力性の低さによって、経済成長に応じた税収の伸びが期待できないことである。税収の所得弾力値が低いのは、サービスが課税対象から外されていること、種々の非課税措置、州際取引に対する利用税の実施徴収が適正に行われていないこと等に起因している。さらに、逆進性の問題や、最終消費に課税するものとしながらも事業取引が課税されるケースが少なくなく、税の累積が起こっているなどの問題もある。
1)売上税のサービス課税化問題
現在、多くの州で売上税のサービス課税が必ずしも積極的に行われていないのは、一つには企業のサービス消費に対する課税が最終消費の段階でのみ課税される場合を除き、累積課税をもたらす懸念があるためである。例えば、中間財の生産を行う企業のデータ処理や広告サービスの購入に対して売上税が課税されたような場合、この企業の製品を購入する他企業に売上税の一部又は全部が転嫁され、二重課税すなわち累積効果が生ずることになる。こうした累積効果は産業構造に非中立的な影響が生じさせ、とりわけ中小企業は不利な状況におかれる。
同様の問題は企業による財購入においてもすでに生じている。1989年の調査によれば、全米平均で売上税の税収の約4割、多い州では約5割が企業の財・サービス購入への課税分であった。無論、各州では有形資産の企業購入に関しては、資本財や再販売品、工業製品に含めまれる製品などを非課税とするなどして、その影響を最小限にとどめるような努力を払っている。
しかし、こうした措置をサービスについても適用することをめぐって、Mikesell[1992]はそれが困難であるとしてサービスは全面非課税としたほうが望ましいと主張する。注6他方、Hellerstein[1992]やFox[1992]は全面的な課税・非課税ではなく、再販売品や加工品に対する非課税規定のような措置をサービスにも講じることを提唱している。注7
サービスに関して企業の事業用購入を売上税非課税とすることは当然、同じケースでの有形資産の非課税にもつながってゆく。したがって、州政府にとって累積課税排除の問題は売上税収への影響や、税源浸食の問題と不可分なのである。そこで、サービス課税の拡大と累積課税の回避のため、現行の売上税に代えて州付加価値税を導入するという議論も出てくるのである。