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例えば、カリフォルニア州で現役生活を送り、退職後、ネバダやテキサスに移住した者も、年金所得に関してカリフォルニア州の所得税を支払わねばならない。カリフォルニア州など課税州の課税根拠は、退職年金所得は本来、在職中に支払われるべき所得を繰り延べしたものにすぎないという見解にある。現在のところ、司法判断は課税州側を支持しているが、退職者サイドは連邦レベルでこうした課税を制限する法律の制定を求めている。

これらの問題は州間の対立を起因として連邦の課税優先権を拡大する潜在的要素であるとして、州政府はその動向に注意している。

(3)州間の租税競争の影響

州・地方税負担が上昇するにつれ企業は(州と地方税負担に)より大きな関心を払うようになるが、近年、そうした傾向が特に強まっている。これは、もともと絶対額において州税・地方税負担の負担が重いことに加えて、1986年のレーガン税制改革によって連邦法人所得税の税率が大幅に引き下げられ(基本税率;46%→34%)、州・地方税控除による減税効果が弱まったこと、外国企業の進出や金融や情報・通信分野での規制緩和などによって企業間の競争が激化し、法人所得税の価格転嫁が困難になってきていること等のためである。

企業からのこうした圧力もあって、各州は独自の租税戦略をたて、州際の租税競争が行われることになる。その中には課税ベースを広げ、政府の効率化をもたらすなどの恩恵をもたらすものもあるが、全く逆に、課税ベースを狭め、州税制の近代化の障害となるようなものも存在する。州間の租税競争と経済活性化と関係についての明確なコンセンサスは確立されていない。

現在、各州が採用しているタックス・インセンティブの多くは恐らくその効果は大きくないと予想されるが、それでも州政府がそうした租税誘因政策を廃止するとは考えにくい。むしろ新しい租税インセンティブは増える傾向にある。

全米州議会議員協議会・全米知事会は、今後、州が利用可能な情報網を整備・改善し、州間の格差を是正して、州間租税競争の好ましからざる影響を小さくすることを提唱している。

1]特定の租税、優遇策についてのみ自州と他州を比較するのではなく、租税負担率を含め、税制全体での比較対比が必要である。また、過度の優遇措置によって州税制全体が歪められることのないよう留意せねばならない。

2]したがって租税インセンティブの導入にあたっては、その目的に沿って適用対象等を絞り込む必要がある。租税インセンティブはあくまでも地域経済開発策の一部として認識されるべきでり、租税優遇のみで構成された活性化策はありえない。特定産業の活性化を図るインセンティブは税収ロスを最小限にとどめ、課税ベースの浸食や水平的公平性の低下はできる限り避けられるべきである。

3]租税インセンティブは州税収の拡大や雇用創出、その他の測定可能な目標を設定し、それらを基準に定期的、体系的に評価を行うことが望ましい。サンセット方式の採用や更新時の徹底的な見直しなども有用であろう。

最後の点に関連して、ウィスコンシン州など一部の州ではインセンティブの評価のガイドラインを設けている。

 

 

 

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