2]通信販売課税をめぐる課税優先権の問題
州の課税権の法的限界(境界)は連邦最高裁のNational Bellas Hess判決(1967年)、さらに1992年のQuill判決にもみられるように州際通商条項の解釈に基づくことが多い。しかし、Bellas Hess判決はそれが正当な法の手続きに基づく判断なのか、州際通商条項に基づく判断なのかを約30年もの間、不明確なままにしている。そのため、連邦議会が問題に対応する明確な権限を有するか否かも不明瞭なままなのである。さらにBellas Hess判決では、その後の技術進歩によって直接販売事業が大きく成長し、また州・地方税に係る納税協力費が軽減されたことまで想定していなかった。しかし、1992年のQuill判決でも、連邦最高裁Bellas Hess判決の判断をそのまま是認し、25年前の判決の根拠の妥当性が弱まっていることが反映されていない。ただし、Quill判決では連邦議会にNational Bellas Hess判決を覆す立法の権限を明確に付与している点において改善はみられるといってよい。
3]連邦規制による連邦課税優先権;メリーランド州低燃費車税をめぐる対立
立法化や司法判断に加えて連邦規制も連邦による優先課税を拡大してきている。1992年、全米ハイウェイ交通安全局(National Highway Traffic Safety Administraion;NHTSA)による報告書(燃費基準に関する内容を含む)の公表後、メリーランド州は低燃費の自動車に対する付加税を導入した。これに対して、NHTSAは連邦の自動車、情報及びコスト節減法が自動車燃費基準に関する州法、州規制に優先するものであるとして、州が先行課税を行ったことを問題視した。同税は燃費基準を課すものではなかったが、NHTSAでは燃費に関係する法もこの優先規定に含まれるものと解釈した。
しかし、このケースの特殊な問題以外にも、NHTSAの行動には州の租税政策に関する広範な問題を含んでいる。すなわち、これを契機に個々の産業からの要請によって連邦規制によるさらなる別の(州税への)連邦の優先権が行われ、連邦主義が侵害される可能性が存在するのである。連邦規制をもとに州税法を制限し、無効化するような動きは州の課税権に対する大きな脅威といえよう。
4]通勤者税と源泉税をめぐる論議
州間の対立は連邦による課税権侵害をもたらす原因となりうる。最近の重要な事例としては、州による非居住者の通勤者、退職者(年金所得者)に対する課税への試みによって発生した。まず、通勤者に対する課税の論議はメイン州とニューハンプシャー州、ニューヨーク州とニュージャージー州の間で起こっている。州外からの通勤者の多いメイン州とニューヨーク州が、それぞれニューハンプシャー州、ニュージャージー州からの通勤者の所得に、州外で生じた分にさらに配偶者の所得も加えて所得税の税率を算定しようとした。そして、連邦裁もこれを支持したため、ニューハンプシャー、ニュージャージー選出の連邦議会議員がこうした所得税率の算出法を禁ずる連邦法の制定を求めている。
退職所得(年金所得)をめぐっても同様の論議が存在する。カリフォルニア州とその他の一部の州では、州内で勤務し退職年金所得を得ている者について、現住所が州外であっても、その年金所得に課税を行っている。