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こうした税収イロージョン面での直接的な影響に加えて、National Ballas Hess社対イリノイ州歳入局裁判での司法判断や、州際所得法の規定が一種の曖昧さを残していることは、州政府の税制改革への取り組みを遅らせるという間接的な影響も生じさせ、州税制が銀行や情報・通信、広告などの州際事業展開に十分に対応できないままとなり、その分野でも税収のロスが発生している。とりわけコンピューター・ネットワーク、電子商取引の利用による州際的な財・サービスの流れの増大は潜在的な課税ベースの損失をもたらし、州内を市場エリアとする販売事業者の法人所得税負担を重くすることによって、同じ州内マーケットで事業活動を行う他州の販売事業者に対して競争面で不利にしているものと思われる。

2]州際の租税協調の欠如がもたらすもの

現在、州間で政策、制度の双方に関して税制の協調がなされていないため、多州籍企業や州際取引の拡大によって不公平性と税収イロージョンの問題がますます深刻化しつつある。最近の一事例であるが、TVネットワークのキー局が集中するカリフォルニア州とニューヨーク州がTVネットワーク2社に対して広告料収入を視聴者数に比例して各州のネットワーク局に配分するようアポーションメントを変更した。しかし、他の州が同調しなかったため、当該所得が(法人所得税)非課税のままとなった。

州際通商への対応が不十分であることはいずれの州でも課税されない所得を生じさせるだけでなく、逆に二重(重複)課税の問題を引き起こす可能性もある。ただし、二重課税問題は州際所得法やBellas Hess判決によってマーケットを有する州が州際取引や通信販売等の州外販売に対して課税することが制限され、かつ、原産地の州が輸出及び輸出に係る所得に対して非課税措置が講じられることによって、この二重課税問題は現在のところ顕在化していない。

Straus[1991]は、州間での協調・調整が行われないことによる州税収のイロージョンが連邦法人所得税の申告所得の約3分の1に及ぶと推計している。注4

3]国際的な移転価格操作の影響

国際的な移転価格操作による連邦法人所得税収の減収が問題となっているが、移転価格操作は州税上も重要な問題である。州間で法人税負担が異なる以上、企業による州レベルでの移転価格操作は当然、行われうる。合併申告制度を採用している州ではこうした移転価格操作による租税回避は不可能であるが、それでも外国企業にまで合併申告を要請している州は少ない。過去、多くの州が外国法人も合併申告の対象としていたが、現在はその大半が世界規模でのユニタリー合併申告を廃止し、数州が当該企業の資産と給与支払いの20%以上がアメリカ国内に存在する場合にのみ、合併申告を採用しているにすぎない。

現在、多くの州において法人所得税の課税ベースは連邦法人所得税におけるアメリカ国内を源泉とする所得となっている。したがって、IRSによるアメリカ法人と外国子会社との移転価格の算定が正確に行われなければ、その分、州法人所得税の課税ベースが減少することになる。現在、IRS、財務省とも、移転価格操作による減収分の推定を行っていないし、また、それに関するデータも公表していない。1992年4月の連邦議会公聴会においてIRS長官が認めたところでは減収規模は約130億ドルであったが、1992年の大統領選キャンペーン中にクリントン大統領が用いた減収推計額は単年度で100億ドルであり正確な水準について不明である。

 

 

 

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