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3 多様性からの変容

 

多様性を特徴とするアメリカの州・地方税制ではあるが、冒頭でも述べたような諸要素、すなわち競争の結果としての収歛と経済の州際化への税制の調和を考慮すれば、今後、州間、地方間での差異が縮小し、多様性から均質性への転換が生ずる可能性も否定できるものではない。

まず、これは税収面での動きにおいてもとらえることができる。1960年度から現在に至る1人当たり州税収の変動係数を算出すると、1960年度0.2562、1970年度0.2411、1980年度0.6514、1990年度0.2855、1997年度0.2264となった。1980年度の変動係数の値が他の年度に比して著しく高い(州間較差が大きい)のはアラスカ州の天然資源関係税の税収の大きさを反映している。そこで、1980年度以降、アラスカ州を除外して変動係数を求めると、1980年度0.2228、1990年度0.2233、1997年度0.2143となった。すなわち、豊富な天然資源を背景に、州税構造としては「異常値」ともいえる独自性を有するアラスカ州を除けば、1960年度以降、変動係数はおおよそ低下傾向にある、したがって、州間の較差は縮小しつつある。ちなみに、わが国の平成8年度における道府県税の1人当たり税収の変動係数は0.22で、分権型の租税政策が展開されるアメリカではあるが、実際には、画一的な地方税制度を有する日本とあまり変わらない結果となっている。

次に、前出の表1〜3では主要州税の制度面での年度比較を行っているが、その結果を用いて、一定の動きを抽出できうるか考えてみたい。まず、州売上税については、データの制約で1987年度と97年度という比較的短いスパンでの比較しかできなかったためもあって、一定の方向の観察結果は得られなかった。

しかし、州個人所得税の場合、1980年度から約20年の間に、税率に関しては明らかにフラット化(累進性の緩和、最高税率の引き下げ)の方向への動きがみられる。1980年度と97年度を対比させると、44州のうちコネチカット州やデラウェア州、ニューヨーク州、カリフォルニア州など約20の州で最高限界税率の引下げと税率の刻みの減少が行われている。他方、マサチューセッツ州やイリノイ州、インディアナ州、オハイオ州、ノースダコタ州、ミシシッピー州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、アイダホ州の9州では最高税率の引上げやブラケットの増加など明らかに累進性強化の動きを示す。しかし、全体としては州個人所得税は累進性緩和あるいはフラット化への方向にあるものと思われる。また、州個人所得税の課税ベースについては、連邦個人所得税の課税ベースを利用する州の数が1980年度の(44州のうちの)33州から97年度には37州にやや増えている。以上より、税率構造と課税ベースの双方において州個人所得税の多様性が減少しつつあると思われる。

州法人所得税の場合、税率に関しては一定の方向は観察できない。しかし、課税ベースに連邦法人所得税のそれを利用する州の数が1980年度の(46州のうちの)35州から、97年度には43州に増えている。なお、地方財産税について、1990年から95年にかけて、50大都市の財産税の実効税率の変動係数はわずかながら(0.5056→0.5004)低下傾向にある。

ところで、このようにして州・地方税制の多様性が均質化に向けて変わりつつあるとするのならば、その要因は何であろうか。これに関してKenyon[1998]は3つの要因をあげている。注2

 

 

 

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