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一方、資本(建物または土地改良)への固定資産税の課税は、資本が可動的であるために土地の場合とは異なる帰着関係を示す。まず資本所有者の受取るフローの建物賃貸料は税の導入で減少するので、資本は当該地域から流出し、その結果、建物供給が減少するので賃貸料の上昇圧力が生じるであろう。長期的には税引き賃貸料が課税前の水準を回復するまで、資本流出と価格上昇が続くとされる。したがって税負担は資本所有者ではなく賃借人に帰着することになる。これは特定の財に賦課される物品税の転嫁に類似していることから、「物品税効果(excise tax effects)」と呼ばれている。建物価格は課税の前後で変わらず、資本化は生じないとされる。

このような転嫁・帰着分析は、建物の所有者と居住者が異なる場合、所有者に賦課された税が賃借者に帰着することを明らかにしている点で示唆に富んでいる。ただ、資本移動は他の生産要素の可動性や要素代替弾力性如何によっては、要素相対価格に影響をおよぼし、非課税生産要素への税の帰着も起こりうるであろう。これらを考慮に入れて下層詳細に税の帰着を明らかにしようとすれば、一般均衡分析の手法が必要となる。

 

2 固定資産税の一般均衡分析(その1-Mieszkowski model)

 

2-1 一般均衡分析の意義

租税転嫁・帰着理論の領域に最初に一般均衡分析の手法を持ち込んだのはA.C.Harberger(1962)であった。国際経済学分野ではすでに馴染みの深いこの分析手法を用いて、Herberger は法人部門の所得のみに賦課される法人税の帰着を考察し、その後の法人税帰着研究に多大の影響を与えた。いまや一般均衡分析は租税転嫁、帰着のスタンダードな分析手法となっている。

Mieszkowski(1972)は伝統的な部分均衡分析による固定資産税の転嫁・帰着論の限界を認識し、新見解として一般均衡分析の適用を試みた。Mieszkowskiの業績は広く受け入れられているが、一方でその理論的不完全性や限界についての指摘も見られる。しかし、固定資産税の帰着に関する一般均衡論的分析手法を初めて提示した意義は決して小さくない。そこでここではまずMieszkowskiの固定資産税帰着分析を簡単に整理してみよう。

 

2-2 Mieszkowski modelの前提条件

Mieszkowskiは1部門、3生産要素のモデルを用いて以下の仮定の下で固定資産税の帰着を分析した(2)。生産物は地域内で生産・消費される住宅財のみとされ、3生産要素、労働、土地、資本のうちの資本だけが産業間・企業間を自由に移動し、土地と労働の供給はともに固定的であると仮定されている。

 

 

 

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