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日本においては、これまで、そのような住民の意思決定の場面が少なかったことは、地方団体の長をはじめとする直接の責任者にとっては好都合であったかも知れないが、健全な自治の観点から見ると残念なことであった。今後は、住民自身が試行錯誤を経て行政水準と負担水準とを選択していくほかはないであろう。

3]紛争裁断権

紛争裁断権は、課税する地方団体と納税者との間の紛争を裁断する権限を指している。紛争裁断権は、これまでに述べてきた「意思決定権」とは異なる性質を有している。地方団体の自律的財政運営の確保の観点から見て、地方団体に必ず留保しなければならない事項ではないと思われる。法規範を適用することによって紛争を裁断できるからである。現在、司法制度を国が独占していても、「地方自治の保障」の観点から特に問題視されていない(憲法自体が最高裁判所を頂点とする司法権を定めているので、最高裁判所の系列に属さない地方団体設立の裁判所で訴訟を終結させる制度は、逆に違憲とされる可能性が高い)。

行政レベルの紛争裁断は別の次元であるが、全国で起こる地方税に関する紛争を管轄する審判所、すなわち「地方税審判所」を設けることも許されるといえよう。また、国税の紛争処理と合体させた「租税審判所」(9)を設けることも含めて、分権化に逆行すると言う必要はないと考える。

4]市町村と道府県とを同列で考えてよいのか

日本の地方自治法制、税制は、市町村と道府県とを、ともに「普通地方公共団体」として、統制条例などごく希な例外を除き、ほとんど同列に考えているように見える。地方税制の仕組みにおいて、いかなる税源に負担を求めるかといった内容面に違いがでるのは当然であるが、「応益」の視点は、両者に共通でよいのか、住民によるコントロールの可能性は両者とも同程度であると想定してよいのか、といった問題があるが、これ以上立ち入らないこととする。

 

2. 分権化社会の地方税制の基本課題

 

(1)分権化社会の自治体事務処理に必要な資金の確保

分権化に伴い必要な資金が増大することを想定するかどうかが問題の出発点となろう。たとえば、河川の管理をすべて地方団体の事務とし、完全に個々の地方団体の自己負担とするならば、必要資金の増大は避けられない。すでに述べたように、地方団体の事務は、国との相対的関係においては増えることが予想されている。

ところで、資金確保の観点のみからは、その財源が地方税なければならない必然性はない。あるいは、税の場合にも、国や他のレベルの地方団体とシェアーしあう税でもかまわないといえよう。しかし、固有の税財源が充実していない場合には、とくに、国の財政事情や意向にって、地方団体の財源が左右されてしまうことが多い。また、特に問題になるのは(地方交付税は、現行のシステムでは、不交付団体に対しては財源の充実をもたらさないことである。

 

 

 

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