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ところで、課税標準に関する法律による規制が問題とされた訴訟に大牟田訴訟がある。電気ガス税(後に電気税、ガス税)につき法律が産業用電力の消費を非課税としていたことが、大牟田市の課税権を侵害しているとして国を相手に損害賠償を求めた訴訟である。

筆者は、原告である大牟田市において、同税が市の「財政の生死を決するほどの重要性を有し、かつ、その税源の大半が非課税対象の電気の消費にかかるものであるために、税収がきわめて限られていることを立証しえた場合には、違憲になる余地がある」と述べたことがある(7)。しかし、そのような立証はきわめて困難である。したがって、地方団体の課税権、とくに財政収入権との関係において、課税標準に関する法律の規制を違憲とすることはほとんど不可能であろう。

ただし、この訴訟には、地方団体の課税内容をいかようにも左右できるのか、国の産業政策を地方税を通じて推進できるのか(8)、といった重要な他の論点も含まれている。

2]税率決定権

税率決定権は、地方団体の財政需要に応じた税収を上げるために、原則として、地方団体に留保されるべきである。もっとも、税率決定権を法律で制約することが許されないわけではない。ことに、複数の段階の政府が同一の税種をシェアーする場合には、法律で一定程度調整する必要がある。その場合にも、一定の範囲内の税率決定の自由を確保すべきである。また、税の性質に応じて、税率の格差が流通を歪めるなどの弊害が大きいと認められる場合も、法律で一定の率に定めざるをえない。たばこ税の税率が一定税率方式になっているのは、シェアー方式と税の性質との二つの理由によるものであろう。

要するに税率決定の弾力性は、必ずしも、すべての税にあまねく求める必要はないと考える。

地方税の税率決定に関して、法律による制約がなくなった場合、住民からの「引き下げ圧力」による「税の競争」に耐えられるかという問題がある。従来は、所定の法定普通税に関しては、地方債許可制度との関係において、標準税率が事実上の下限となっていたので、都市計画税を除いては、ほとんど問題が顕在化しなかったのであるが、完全に地方団体が自由に税率を決められるようになると仮定した場合には、地方団体の長や議会は、少なくとも短期的には、大幅な税率引き下げを余儀なくされることが起きるであろう。従来、固定資産税の評価水準などについて果たされてきた「霞ヶ関・永田町」機能(負担水準の決定は当該地方団体で決められることではないという弁解ができること)を懐かしく思われるかも知れない。

もっとも、税負担とサービスとの対応関係が明確になっているならば、どの程度のサービスでよいとするかは、住民による選択の問題である。ある時期に税率を引き下げても、サービス水準を回復すべきであるという議論が起こって、住民の意思による税率変更がなされるであろう。

 

 

 

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