一つは、地方税も、「租税法律主義」により、法律で定めることを第一義にすべきであり、地方団体の制定する条例は、そのような条件法律の下において、あるいは法律の委任の範囲内で制定されるに過ぎないという見方である。
もう一つは、「租税法律主義」は、租税の内容は、その構成員の合意により形成されるべきものであるから、地方税に関しては、それぞれの地方団体の条例制定により意思の形成をなすべきであるという考え方である。これが「地方税条例主義」と呼ばれる(3)。
筆者は、かねてより第二の考え方をとってきた。しかしながら、「地方税条例主義」によることは、必ずしも国の立法的関与が完全に排除されることを意味するものではない。国の関与には、立法的関与と行政的関与とがあるが(さらには司法的関与があるが、ここではひとまず除く)、立法的関与は肯定しなければならないと考える。その実質的根拠は、国とトータルな地方団体との課税権の調整、及び地方団体間における調整が、不可欠とされるからである。
国と地方団体との間の課税権の調整を憲法で行うことも考えられるが、諸外国においても、連邦制の国における連邦と州との課税権の調整は連邦憲法で行うが、単一国家又は州と地方団体との調整は、単一国家又は州の法律によって行う例が多い。日本国憲法のような硬性憲法において、税源配分自体を定めると、社会経済情勢の変化に迅速に対応できないおそれがある(それ以上に、憲法改正に対するアレルギーの強い日本において、税源配分条項を憲法に入れる憲法改正自体が実現の可能性の低いものである)。かくて、連邦制をとっている国の連邦政府と州政府との関係に関する制度や議論を、日本における国と地方団体との間の議論に当てはめることには、慎重でなければならない。
日本国憲法は、地方団体の課税権の内容を定める固有の規定を有していない。かえって、憲法92条が、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」として、「法律」の存在を予定しているとも言える。
地方団体間の課税権調整(市町村相互間、都道府県相互間、市町村・都道府県間の調整)は、地方団体の数が少ない場合には、地方団体の全国的組織により行うことも可能であろうが、三千を超える地方団体の合意を形成することは、実際上困難であろう。それに代わる方法として、立法府が調整することが最も自然である(4)。
(b)立法的関与の程度
ところで、国の立法的な関与をどこまで行うべきか、あるいは、行うことができるか、という点は、ただちに答えることの困難な問題である。地方団体が、独立の権利主体、「地方政府」として自律的に活動することが可能な状態にすることこそ「地方自治の本旨」の所以であるから、それを全く不可能にするような法律による拘束的規律は避けなければならない(後述)。ただし、現在の日本の制度は、法定外税の許容など、ある意味において緩やかな関与である。