第二部 分権型社会に対応した地方税制のあり方に関する調査研究
分権型社会の地方税制
東京大学教授 碓井光明
1. 問題の所在
(1)何に関する分権か
「分権」というときに、何に関する分権であるかを明らかにしておく必要がある。
1]事務処理(社会管理=行政)に関する意思決定権が中央政府に留保されてきた集権状態を改めて「分権」を図るという意味と、2]国の事務は国が自ら処理し、地方団体は地域の事務を処理するという「分離」とは分けて考えることができる(1)。しかし、地方税制における「分権」論議においては、この両者が必ずしも区別しないで論じられる傾向があるが、この点を意識することは、地方税の賦課徴収を国が行う場合などに意味をもつと思われる。
地方分権の推進の動きにおいて、「分権」というときには、前記の1]と2]の双方を含むようである。機関委任事務の廃止に伴う法定受託事務・自治事務への振り分けも両方の意味をもっている。地方分権推進の動きのなかには、河川や道路の管理事務の移管を図るようなときには、同時に2]の面をも志向している。そうであるとするならば、まさに地方の事務が増大するわけで、「地方財源の充実」を図ることが不可欠である。
地方財源の充実を考える場合に、どのように充実するのかが問題になる。「地方財源の充実は地方分権の実現の不可欠な前提である」ことを承認するとしても、必ずしも地方税による充実を図る必要はないという見方もありうる。財源調達は、事務処理の手段(行政手段)を供給するにすぎないから、たとえば、地方税に固有の分権は考える必要がないという考え方もありえよう。コンテクストが完全に一致するわけではないが、財政自主権や自治財政権の議論との関係において、「行政執行上の地方自治」と「財政上の地方自治」とを区別して議論したことがある(2)。たとえば、地方交付税のような国から交付される財源であっても「行政執行上の自治」が実現できるならばよいという考えに連なるものである。
筆者は、このような考え方に一定程度の理解を示したいが、地域の財政需要をどのように満たすかについての地域の自主的判断とその実現が可能とされる制度を用意することは、きわめて重要なことと考える。そのためには、固有の財源を増やす必要がある。
(2)地方税に関する意思決定権と国の関与
地方税に関する意思決定権をどの機関が有するべきかについて、国の関与の面から考察してみよう。
1]立法的関与
(a)地方税条例主義との関係
国税に関する意思決定権は、「租税法律主義」の下で、第一次的に国会に委ねられている(憲法84条)。このことを地方税のレベルにおいて、どのように受け止めるかについては、対照的な二つの考え方がある。