V 既存インフラによる新たなコミュニティ施策の展開
〜余裕教室のコミュニティ施設への転用を事例として
川崎市総合企画局都市政策部
主幹 大矢野修
はじめに
自由時間の増大や生活様式の変化、価値観の多様化などにより、各世代にわたる市民一人ひとりの「生涯学習」へのニーズや、福祉、環境など、地域社会のさまざまな課題への積極的かつ自立的な参加ニーズがますます高まっている。多様化し増大する市民ニーズに的確に対応するためには、市民が身近で気軽に利用できる場の充足を図る必要がある。だが、現在の各施設の充足状況や、限られた財源などを考えると、既存施設の活用も含めた多角的な検討が不可欠といえる。少子化によってうまれた余裕教室はその資源の一つである。
文部省は生涯学習審議会答申(平成4年7月29日)などを踏まえ、平成5年度に「余裕教室活用指針」をまとめ、余裕教室の層の活用を推進し学校施設の高機能化、多機能化を図るここととした。また、「公立学校施設整備費等に係る財産処分の取り扱い等について(平成7年4月28日付け7教施第12号)」により、老人サービスセンターなどの高齢者福祉施設への転用についても、報告事項で足りるとし事務の簡素化が図られた。自治体は計画的な検討体制を確立し指針の趣旨に従えば、余裕教室の転用が可能となった。
賽は自治体側に投げられたことになる。
本稿では、いま川崎市で進められている、余裕教室のコミュニティ施設への転用を事例としてとりあげた後、コミューティ施設の意義について述べ、新たな時代にふさわしい施設整備の方向性を明らかにしていく。そしてそれは、市民一人ひとりの学習環境を整備するために、どこにいても人々の学習が促されるように社会的環境を整備する(社会の教育化)ことと、現実の動きにあわせて伝統的な学校教育を改革すること(教育の社会化)、これらの課題に対する一つの回答だと考える。
1 余裕教室の転用をめぐって〜自治体職員の役割
余裕教室のコミュニティ施設への転用とは何か。単にそれは、空いているから使うということではない。そこでは常に「学校を地域に開く」とは何か、その意味が問われなくてはならない。余裕教室の転用は、市民の実践活動、福祉や環境などの学習活動、そういった新たな風を市民合意のもとに学校の中に吹き込むことである。