(4) 社会資本整備の新たな視点
以上、概観してきたように、今後、東京において社会資本整備を進めていく上では、「量的な充足」と「質的な拡充」の両立、大都市空間の修復・更新、既存ストックの有効活用、環境への層の配慮などが強く求められていく。
さらに、現下の厳しい財政状況等を勘案すると、これから到来する成熟社会では、これまでのような大幅な税収の伸びを期待することはできず、必然的に、最小の費用で最大の効果を上げる公共投資のあり方が要請されることとなり、官民の役割の見直しを含め、多様な整備手法を模索していく必要がある。
2. 具体的な取組み事例
これまで述べてきた東京の社会資本整備をめぐる諸課題を踏まえ、東京都が取り組んでいる具体的な事例の端を以下に紹介する。
(1) 都営住宅のスーパーリフォーム事業
1] 経緯
東京都の都営住宅の管理戸数は、平成9年度末現在、約25万4千戸となっている。東京都では、都営住宅の老朽化等に対応するため、昭和39(1964)年以前に建設した都営住宅について順次建替えを進めるとともに、主に昭和30年代に建設した浴室のない中層住宅に対しては、一部増築と浴室の設置等を行うなど、十数年後の建替工事を前提とした補完的な事業を実施してきた。
しかし、都営住宅の既存ストックの44%を占める昭和40年代建設の住宅は、そのほとんどが鉄筋コンクリート造りの中高層住宅であり、躯体自体はまだ耐用年数に達していない。また、建替え工事には長期間を要するとともに、居住者の高齢化、世帯構成人員の減少、循環重視の機運の高まり等を踏まえると、今後長期的に使用可能な既存ストックの有効活用を検討する必要が出てきた。
2] 事業概要
以上のような経緯から、昭和40年代建設の中高層住宅については、建物の躯体を活かしつつ、住宅内部で間取りの変更やバリアフリー仕様への更新を行うとともに、スロープやエレベーターの設置などをあわせて実施することにより、新築とほぼ同程度の住宅とする全く新しい手法を導入することとした。これを「スーパーリフォーム事業」と呼び、当該事業の導入により、建替えピークの分散、既存ストックの再生・長寿化を図るものである。