(2) 都市部における公共投資の課題
1] 新たな社会資本整備の必要性
1981年の国際障害者年、1983年から1992年までの国際障害者の10年などを背景に、バリアフリーやノーマライゼーションといった考え方が世界で定着してきた。高齢者・障害者が特別視されることなく、社会に生活する個人として一般の社会に参加し、行動できるようにすべきであるという考え方のもと、障害者配慮、障害者対応のための建築上の障壁の除去(バリアフリー)がその施策の中心に置かれてきた。
また一方、先に述べたとおり、2020年に全人口の25%程度が65歳以上となる我が国はもちろんのこと、欧米等においても、高齢化問題は大きな社会問題であり、特に、人口が集中する大都市においては、高齢者問題への対応は、まちづくりのあり方を考える上でも最重要の課題となってきた。
この高齢化問題の中で、明らかなのは、元来は健常者であったが、加齢とともに軽度な身体的能力が低下した高齢者が社会の大きな部分を占めるようになること、高齢者も程度の差こそあれ、何らかの障害を持つようになることである。つまり、人間誰もが、遅かれ早かれ何らかの障害を持つと言うことである。1990年以降、「できる限り最大限すべての人に利用可能であるように製品、建物、空間をデザインする」こと(ユニバーサル・デザイン)の重要性が欧米諸国を中心に唱われている。この発想が、上記の問題に寄与するものと考えられる。
2] 都市の再構築
平成10年3月に閣議決定された新しい全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」においては、「人口、諸機能の集中が著しく、過密に伴い諸問題を抱えている大都市において、人間性の回復を重視した安全でうるおいのある豊かな生活空間を再生するとともに、我が国の経済活力の維持に積極的に貢献し、高次都市機能の円滑かつ効率的な発揮を可能とするため、大都市空間を修復、更新し、有効に活用する「大都市のリノベーション」を推進する」ことが唱われている。戦後の高度経済成長期からこれまで、我が国都市部における公共投資は、効率や機能重視であった点は否めない。しかし、経済的な効率が普遍の価値観でなくなり、求められる都市環境も高度化、多様化してきている今日では、地域の個性の発揮に併せて、環境や安全、つまり「心の豊かさ」や「ゆとり」、あるいは「震災に強く」、「誰にとっても暮らしやすい」まちづくりが最大のテーマであろう。
高度経済成長期において整備した社会資本の多くが更新期を迎えている現在、単なる施設の更新ではなく、既存の都市空間を有効に活用した都市のリノベーション(再生・深化)が求められているのである。