日本財団 図書館


この場合、年間約1パーセントというaの長期値と1.5パーセントというbの長期値は受け入れがたいものではない7 8。gは年間2パーセント前後となる。

 

15. 資本費用と時間選好率に対して最高レベルの6パーセントという率を実際に選択するのは、たとえば、民間部門の供給に不利な非効率な偏りをなくすという問題を反映させた営業上の判断である。しかし実際の意思決定ではたいてい、たとえば4、5パーセントではなく6パーセントを選択しても、その影響は小さい。リスク評価を確実に行い、費用と便益の予測も確実に行うには(ひいては、支出管理を適正に行うには)、通常各種選択肢を適正に選択する方がはるかに重要である。しかし場合によっては、割引率の正確な値がかなり大きな影響を与えることもあるので、こうした特殊ケースのメリットについても検討する必要がある。

 

16. そうしたケースは、非常に長期的な影響に関係があるように思われる。こうした場合は、本別添本文の第4(ix)項でも指摘したように、低い割引率の方が適している。こうしたケースでは、4-6パーセントの範囲における下限値に近い値を採用し、その諸側面をテストする方が良策であろう。

 

17. たとえば死亡や健康状態の変化といったリスクに対する費用と便益は、所得の変動とは関係なく、時系列的にほぼ一定した効用値を持つものと見ることもできよう。その場合には、将来におけるそうした費用や便益を「今日の」価値で評価し、割引率aで割り引くこともできる。そうすれば、そうした価値の時系列的伸び率を別に算定する必要もなくなる。

 

18. 民間部門向けに商業的販売を行う機関の「法定収益率」を資本費用より高い率に設定すれば、その機関の事業による平均収益率はその限界収益率を上回り、その限界収益率はその資本費用にほぼ等しくなると推定される。この点は、民間部門の資本費用と資産収益率に関する過去のデータとも一致している。

 

7 消費の限界効用弾性値-bは、CU"/U'から得られる。この場合、Cは消費、Uは消費の効用である。この弾性値を具体的に説明すると、追加支出1ポンドである者が得る楽しみはその者の所得に応じてどの程度変わるかを示す値である(しかし社会的時間選好の場合は、所得の異なる同じ人々の間ではなく、前世代と後世代間の比較となる)。ある者の年間所得が10,000ポンドであれ、20,000ポンドであれ、追加1ポンドでその者が同じ楽しみを得るとすれば、その者にとっては弾性値ゼロということになる。(ほとんどの商品とサービスの場合と同様、所得が多くなれば、追加金から得られる限界の楽しみは少なくなるので、弾性値ゼロというのは驚くべきことであろう)。弾性値-1とは、所得10,000ポンドの場合は、所得20,000ポンドの場合に比べ追加1ポンドで2倍の楽しみが得られるという意味である。弾性値-2と-3は、それぞれ4倍(2×2)と8倍(2×2×2)を意味する。この場合に必要となる判断は、概念上かなり簡単であり、所得再配分の増減という理念とはまったく関係がない。(盗難や、個人金融資産価値の変動といった、はるかに複雑な影響を与える、既知基準に対比した損得とは異なるものとして)直接認知されない小さな所得変動の限界効用に関する判断であるので、リスクに対する姿勢との関係も非常に緩やかなものにすぎない。実際には、所得の限界効用に対する約1.5という弾性値bはかなり広く受け入れられている。主として貯蓄行動から得られた経験的関連データは、解釈がむずかしく、基準値より高いか低いかを明確に示すものではない。

8 通常、係数aは、係数bに比べ、時間選好に対する寄与率が低いと想定されているが、bよりも主観的な係数である。この係数aには、軍事的、生物学的、自然物理学的災害の発生確率といった一般的リスクが導入されているが、歴史的視点や技術革新の視点から見て無視できないものである。また、この係数は、現世代全体(またはその代表としての政府)が将来の世代をどの程度気にかけているかによって変わってくるので、倫理的な面も備えている。こうした点に関する証拠データはほとんどないが、人々は将来の世代よりも自分自身やその子供の方をはるかに気にかけているように見える。時には、「持続可能な開発」政策が値aを低くするという意見もある。地球温暖化の脅威やその他災害の影響増大、経済的繁栄に伴い人々が環境に与える価値の増大などにより、環境の持続性を一層重視する政策はそうした側面を持たないだろう。しかし、過去に比べ、現世代が未来世代の限界福祉を気にかけていることが示されれば、aの値は当然低くなる。逆に、それほど気にかけていなければ、aの値は高くなる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION