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10. したがって、直接認知されない小さな変動値に対しては、上記第6項の式を引き出した簡単な期待効用分析だけで十分だが、リスクの高い金融資産に関連する投資家の複雑な選好を捕らえることはできない。しかし実際には、公的資金によるものであれ、民間資金によるものであれ、公共部門が調達または供給する事業に比べ、システムリスクの影響は小さいように思える。英国におけるリスクのない市場金利は、今や物価スライド型収益率とみなされることが多い。1996年におけるこの収益率は全般的に3パーセントを少し上回っていた。長期投資に対する平均税込み収益率はこの数年に大幅に変動したが、長期的にはその平均率は6パーセントをやや下回っていた。低リスクの長期投資コストはリスクのない金利に近く、約5〜6パーセントである。債務コストはむしろそれよりも低く、「民間」部門全体のシステムリスクの低い資本費用をさらに約5パーセント台まで引き下げよう5 6。「公共」部門の資本費用は、リスクのない金利並びに課税と上記リスクの調整率の合計である。民間企業におけるこの課税調整率は、通例約1パーセント以下である。リスク調整率の合計も一般的に約5パーセントとなる。

 

11. 結局、所得と相関関係のある公共事業のシステムリスクの費用と便益は一般的に小さいということになる。何らかの事業に対して民間部門の競争入札が行われる場合には、公共部門と民間部門の両資本費用にもこの点が反映される。そうした事業に対する民間部門の競争入札価格が公共部門の比較対照入札の費用よりも高い場合は、その費用計算をすべて見直す必要がある。

 

12. 政府借入金利も、不完全だが直接的な時間選好尺度となる。この税引き借入金利は、人々が何とか節約したい限界低リスク金利である。節約したい人々が採用できる実質的低リスク期待金利は、従来4パーセントを下回っている。他方、多くの人々ははるかに高い金利で借入れをしているので、市場金利から時間選好に関する明確な結論を引き出すことはできない。時間選好の他に、人々が貸し借りの際に選択する金利に影響を及ぼす要因としては、流動資産保有価値などいくつかある。

 

13. 消費における国家的または社会的時間選好に対する最も一般的な分析方式は、この時間選好を2つの構成要素の合計とみなすことである。一方の構成要素aは、「効用」に関する純粋な時間選好推定値である。これは、遠い未来世代の限界効用に対する人々の関心の薄さ並びに将来の便益を大幅に消し去る何らかの一般的災害の発生確率に関係がある。もう一方のさらに大きな構成要素は、将来は人々の所得が増える見込みがあるので、わずか1ポンドの消費でもその所得の効用を低下させるという点を反映させたものである。

 

14. 消費レベルの増大に伴い消費の限界効用がどの程度低下するかは、通常、「消費の限界効用弾性値」により定量化される。この弾性値は、たとえば、bというマイナス値で表わされる。bを不当な制限値ではない一定値と想定すると、年度1の割引係数は1/(1+a)t(1+g)btとなる。この場合、gは1人当たり所得の年間伸び率である。したがって、年間割引率は実際上a+bgに等しくなる。aとbの計量化は部分的に判断の問題となる面もある。

 

5 一部の民間資金導入プロジェクトには、民間金融業者では実際上分散しにくいが、公共資金調達により広く分散されるその他のリスクも生ずることがある。

6 民営化された公益事業に対して規制当局では、現在約6-8パーセント(BT社では8-9パーセント)の税込み実質資産収益率を目指しているが、規制制度発足後数年間に最も深刻な論争の的となっているのは資産基盤とその減価償却率の選定方法である。

 

 

 

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