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5. 所与の期待値を持つ費用や便益が不確定で、この不確定性が「所得と確実に相関関係にある」(つまり、所得が増えれば費用や便益も増大し、所得が減れば費用や便益も減少する)場合には、福祉への影響は小さくなる。これは、所得が増えると、追加1ポンドの福祉価値が低下するからである。人件費の上昇、サービス便益の金銭的価値の上昇といったいろいろな理由により、多くの公共プロジェクトにおける費用と便益の実質的金銭価値は、所得が増えれば高くなり、所得が減れば低くなる。こうした影響は、所得に応じて組織的に変動する費用や便益と関係があるため、システムリスクと呼ばれることもある。

 

6. 「確定性相当」値を得るために、将来におけるこの種の費用や便益に対する実質的金銭価値から差し引く量を表わす一般式3は、次式のとおりである。

-[YU"/U'][cov(x,Y)/E(Y)]

この場合、Yは所得、E(Y)はその期待値である。

xはプロジェクトの費用または便益である。

Uは効用、U'とU"は所得に関するUの第1及び第2偏差である。

con(X,Y)はXとYの共分散で、pσxσyに等しい。この場合のpはXとYの相関係数で、σxとσyは標準偏差である。

 

7. 上式の最初のかっこ内にある項を定量化する方法は各種ある。この項は、しばしば「相対リスク回避係数」と呼ばれる。

 

8. 特に先進諸国の場合、財政の福祉経済面において、リスクは、通常将来国民の得る所得の限界変動と関係がある。この項は、上記第6項の式を構成する効用関数から当然算定されるものと予想できる。この場合のその値は、「限界効用の弾性値」に等しく、弾性値-bに非常に近いものと思われる。この弾性値については、国民1人当たりの所得が時系列的に増大する場合と関連させて後述する。この弾性値は、およそ1や2の(マイナス)値になる。費用や便益が所得に正比例する場合には、この基準値に基づく調整率は0.5パーセントをはるかに下回る。6パーセントの資本費用と時間選好率には、この小さな調整率も含まれている4

 

9. 対照的に、金融経済と消費者行動分析は、通常、株式市場への投資から人々が求めるリスク・プレミアムと関係がある。近年においては、個人資産の配分計画におけるより複雑なリスク回避分析と関係がある。この種の研究では通常、30以上というかなり高い見かけの「相対リスク回避係数」を示している。こうした数値がもっと高くても、福祉分析の視点から見ると決して驚くことではない。この種のリスクによる行動面(たとえば機会消失時の後悔、相対的所得や投資の成功に対する関心、時系列的な個人所得の大きな変動を回避することに対する関心、成功及び失敗に対する投資マネージャーへの非対称的な報酬など)は、課税の限界変動によるものよりもはるかに多様かつ複雑である。

 

3 この式が初めて適用されたのは、おそらく1974年の有名な世界銀行方式「リトル・アンド・マーリーズ」(Little and Merlees)による投資の事前評価であろう。それ以来この式はますます広く定着するようになった。

4 特定の費用と便益により時間選好率を設定し、変動率をケースごとに個別に処理する方が、明らかに正確な値が得られよう。しかし、大多数の実用途に十分適用できる変動調整率を標準率に導入する方が、実際上簡単である。

 

 

 

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