1. 政府の資本費用と割引率並びに法定収益率の設定に対する技術的背景は複雑であるが、その基本的動機は次のとおりである。
(i) その資源は他の使途に使われたり、直接消費に便益をもたらしたり、少なくともその一部が投資されて収益を生み出すので、政府によって支出される資源はひとつの機会費用である。また、公共支出を徐々に限界点まで増化していく課税による歪みという費用もある。
(ii) こうした機会費用は追加支出と支出削減の両方に等しく適用され、一般的には初期年度と同様、後期年度にも適用される。したがって、一般的に機会費用は公共支出の単なる時系列的比較には使用されない。こうした比較における概念基準は、人々の消費に対する「時間選好」に左右される1。
(iii) しかし、公共部門の生産物に対する原価計算では、「資本費用」を採用する必要がある。そうすれば、民間部門の供給財との限界資本費用を効率的に比較することができる2。
(iv) 一部の政府機関では、民間部門向けに商業的販売を行っているが、財政目標をその使用総資本に対する平均収益率で設定する必要がある。こうした目標には、民間市場における資本費用と平均収益の差を反映させる必要がある。
2. 時間選好率と資本費用に対するこの2つの率はそれぞれ異なる概念であり、いかなる現実的想定の下でも同じにならない。しかし、実際上はほとんどの場合に両方の率のもっともらしい範囲内にある唯一の数値が設定されている。
3. 各率は3つの構成成分からなる。その一つ(リスク引当金)は両方とも同じだが、その他の構成成分はまったく異なっている。リスクを別にすると、「時間選好率」は、近い将来の人々に比べ、遠い将来の人々は追加限界所得からどれだけ多くの利益を得るか、将来の国民の限界福祉に常にどれほどの比重を与えるべきかという判断から推定される。逆に、リスクのない「資本費用」は、リスクのない市場金利に課税調整を加えた金利から得られる。
4. リスク要因は、費用や便益の推定値に見られる楽観的偏りからも、プロジェクト結果の無作為的変動からも生ずるものではない。別添Bで説明したように、楽観的偏りは別の方法で処理すべきである。期待結果に関する変動は、平均値ゼロを持つ両方向のものとなる。公共部門のプロジェクトでは、こうした変動のほとんどが経済全体に渡って余りにも広く薄く広がるため、納税者が負う平均費用は大して大きくない。ところが、楽観的偏りの費用は完全に納税者の負担となり、かなりの金額になることもある。しかし、プロジェクトの費用や利益が将来の所得と相関関係がある場合には、1ポンド当たりの費用や利益に対する福祉への影響も関係してくる。
1 公共支出や公共収入の場合も同様である。実際上、こうした量すべての限界変動に対する時間選好は同一と想定されている。
2 政府の借入れ金利自体は、公共部門と民間部門の供給量比較における十分な基準にはならない。その金利がそれぞれ異なる課税レベルを反映していない上、プロジェクトのキャッシュフローの変動から生ずる費用も便益も除外しているからである。