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(i) 「近代的賃貸借契約」は、15年、25年、35年の期間が多い(場合によってはたまに中断期間を伴うこともある)。この場合の賃貸料は(通常)5年ごとに見直されるので、次の見直しまでに市場賃貸料と一時的賃貸料の間に開きが生ずる可能性がある。市場賃貸料が一時的賃貸料を上回ると、次の賃貸料見直し時まで「利益賃貸料」を生むことになる。逆に、一時的賃貸料が市場賃貸料を上回れば、その不動産は「過大評価賃貸物件」と呼ばれる。そうした賃貸借契約には、通常、「上昇時のみ賃貸料見直し」(UORR = Upward Only Rent Review)という条項が盛り込まれている。そのため、賃貸料が不動産サイクルにおける最高レベルに設定されると、見直し期間中「過大評価賃貸料」が継続されることになる。

 

(ii) 「歴史的賃貸借契約」では、賃貸料見直しが全然またはほとんど行われない。そのため、賃貸借契約が満了するまで市場賃貸料が適用されないこともある。そうした場合には、「利益賃貸料」が不動産自体の貴重な不動産権益となりうる。

 

こうした相違点は貸借権を売るか買うかという選択肢となりうる。

 

15. 明らかに同じような各種不動産の一時的賃貸料には実際の経済的条件の違いを反映させることはできるが、そうした各種賃貸料を直接比較することはできそうにない。たとえばオフィス・ブロック1物件に対する賃貸料は、テナント側が補修費と保険料を支払う補修及び保険付きの場合もある。他方、実質的に同じようなブロックに対して、テナント側が同一賃貸料を払い、地主側が保険料と補修費を負担する場合もある。こうした異なる選択肢を事前評価する場合は、賃貸借契約書が賃貸料についてどう規定しているかという点について助言を求める必要がある。

 

16. 自由保有不動産の売却や賃貸不動産の譲渡、転貸といった不動産処分を伴う場合も、むずかしい問題が生ずることがある。いずれの場合も、法定手続き料、マーケテイング費用、撤去費用といったかなり多額の処分費を考慮に入れる必要がある。未発達の市場では、時期の問題も生ずる。特定施設部門の市場が供給過剰に陥っている場合や、上記第14項で述べた理由から不動産が過大評価賃貸物件となっている場合は、そうした問題が特にむずかしくなる。そうした場合は、逆プレミアムを支払って賃貸物件を処分することも可能であろう。市場が好転するか、賃貸借契約が停止されるまでは、逆プレミアムは、現在の一時的賃貸料と市場賃貸料の差額に少なくとも等しい金額である。他方、市場が好転するか、賃貸借契約が停止されるまで、遊休不動産を保持する必要が生ずる場合もあろう。

 

17. 事前評価時の計算には、中央政府全体が負担する費用も算入しなければならない。共同占有建物(JOB)の場合は、この点が重要になる。一方の占有者が立ち退いたため主占有者に追加費用がかかる場合は、代わりのテナントを見つけるのに苦労することもありうる。

 

将来価値の試算

18. 近代的賃貸借契約では通常5年ごとに賃貸料を見直すので、不動産賃貸料の予測変動を考慮に入れる必要がある。不動産価格と賃貸料は、従来消費者物価やGDPデフレーターに比べ変動が激しい。そのため、現行市場価格は将来の価格を予測する手引きとはなりにくい。その上、不動産価格サイクルの振幅と局面が少し変動するだけで、しばしば各選択肢の純現在価値(NPV)に非常に大きな影響を及ぼす。したがって、感応度分析が特に重要になる。不動産価格の長期的動向については、不動産専門家やエコノミストから助言を受けるべきである。

 

 

 

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