9. 特に成長志向の小企業や革新的企業の場合は、情報問題が資本市場の失敗に陥らせる最大の原因になることもある。逆選択問題に加え、監視費や事前評価費も、中小企業の資金調達を制限する原因になりうる。それは、投資レベルとは関係なく同じような情報収集方法が採用されるので、投資の事前評価と監視のために資金提供者が情報収集にかける費用は、投資レベルの上昇に比例して低下する傾向があるからである。査定と評価に必要な情報の収集費と提供費を費用効果のある経済効率の高い方法で低減化できるならば、政府の介入も正統と認められよう。
リスクと不確実要因
10. 不完全な情報に伴うリスクと不確実要因とは、具体的に言えば、リスク嫌いの投資家がリスクの高い投資から高い収益率を求めようとすることであろう。高レベルのリスクと不確実要因を伴うプロジェクトにおいて投資家が高い収益を求めること自体は、政府介入の正統な理由とはならない。高レベルのリスクと不確実要因を伴うプロジェクトでは、投資家に実質的費用を負担させるので、高い収益をあげる必要も生ずる。しかし、政府が市場よりも効率的に情報提供を行って不確実要因を低減化できる場合は、政府介入のケースもありうる。また、資金提供者間の競争が不十分なために、そうした投資家がリスクの低い投資から過大な収益を得て、リスクの高いプロジェクトを避けようとする場合も、政府介入のケースが生ずることもある。
11. 資金提供者間の競争が不十分であると、新技術を利用するプロジェクトのような異例の投資プロジェクトを評価する際に、必要な情報や専門知識を確保しようという意欲も低下するはずである。資金提供者がそうしたプロジェクトを十分事前評価できなければ、何らかの不確実要因が生れ、資金提供者は投資を回避したり、非効率的な短いペイバック期間を求めたりする原因ともなりかねない。
参入・退出障壁
12. 市場に参入障壁があれば、問題の市場では実際的または潜在的競争が不十分になり、効率的な取引を生み出せないこともある。そうした状況に対する適切な対応策は、参入障壁の実態に応じて異なる。参入障壁を生む要因としては、絶対的に有利なコスト、規模の経済、製品の差別化などがある。さらに、埋没原価が退出障壁となる場合は、それも市場参入に二の足を踏ませる原因となりうる。こうした状況は、たとえば過剰生産能力に投資するといった既存企業側の戦略的行動や、略奪的価格政策を通して一層悪化することもある。一般的に、競争が不十分な状況は、時には他の産業政策面とも密接な関係があるが、競争政策当局にとっては重大問題である。
動学的影響
13. 政府介入のケースを検討する場合は、市場の失敗による動学的影響を調べることも重要である。科学技術や技術革新に関係のある政府介入の場合は、特に重要である。動学的影響を考慮に入れると、市場の失敗により資源配分の間違いが生ずる可能性が高まる恐れもあるが、政策立案者が利用できる数少ない情報に対する需要も増大する。そうした場合には、市場の静学的な失敗の場合に比べ、政府介入の利得が増大することもある。しかし、政府の市場介入能力が一層低下する恐れもある。
効果的な政府介入の限界
14. 市場の失敗を適正に診断し、費用に大きな歪みを生じさせない費用効果のある方法でそれを是正する政策を立案する政策立案者の能力には、いくつかの限界がある。効果的な政府介入の範囲を大幅に制限する要因は多い。こうした要因としては、市場の失敗が経済業績の悪化を招くような多くの状況の複雑さがある。また、各企業の商業的決定に必要不可欠な顧客、市場、生産体制などに関する企業特有の情報という資産を政府自体が所有できないことも、そうした要因の一つとなる。