1. 政府介入が経済の効率化を図るということが十分ではないので、必ず何らかの形態の市場の失敗が起こる。我々は市場の失敗を常に観測することはできない。我々が観測するのはその実際や見かけの影響である。しかし、こうした観測結果(たとえば何らかの企業が資金を確保できないことなど)には多くの原因があり、市場の失敗に陥らなくても起こることがある。したがって、市場が実際に失敗に陥っているかどうかを正しく判断し、適切な対応政策を見極めるには、観測結果の原因が何かを確定する必要がある。
2. 市場が失敗に陥る要因としては、公共財、外的要因、不完全な情報、参入・退出障壁などがある。以下においてはこうした要因について順番に検討する。
公共財
3. 公共財は、消費面で競争相手のない寡占商品である。こうした条件は「フリー・ライダー」的問題を引き起こし、市場は非効率的な低レベルの需要しか生み出さない。
外的要因
4. 外的要因が発生するのは、企業の経済活動が他の企業や個人のための便益を生んだり、自ら負担する必要のない費用を他の企業に負担させたりする場合である。ほぼすべての経済活動からこうした外的要因が生まれる。そのため、特定の実質的外的要因を特定できる場合のみに政府介入措置を制限する必要がある。原則として、その最適解決策は財産権制度を改革して外的要因を内的要因に変えることであるが、必ずしも可能とは限らない。外的要因の例としては、職業訓練や技術流出、環境関係の費用と便益がある。
不完全な情報と不確実要因
5. 取引を行うためには、買手と売手の身元と所在地、それに両者の求める取引価格を知らなければならない。買手側は、商品やサービスの品質、それから得られる便益の価値も知る必要がある。売手側は、支払方法が割賦払いや延べ払いの場合に買手の信用度を知る必要がある(たとえば通貨の貸手である銀行は借手の信用度を知る必要がある)。
6. ある意味で、情報も商品として扱うことができるが、購入する商品の中身が購入前にはまったく分からないという複雑な問題がある。情報を自由に入手できない場合、市場が失敗に陥ることはないが情報を提供する費用と緊密に関連した価格情報を入手できない場合、市場は失敗に陥る。
7. 公共財の性質についてのなんらかの情報は、効率的レベルで情報提供が提供されない点に在る。情報の生産面で規模の経済が働いている場合も、問題が生ずる。
8. 情報を取引商品とみなすのは必ずしも適切ではない。多くの場合は、一方の取引当事者から他方の取引当事者へ自由に情報が提供される(たとえば、販売員は買ってくれそうな顧客へ情報を提供する)。こうした情報の偏向性は、逆選択やモラル・ハザードといった問題を引き起こし、ひいては不確実要因や非効率的な低い取引レベルの原因となる。