15. 英国運輸省では、国内の道路交通における死亡リスク削減の価値を約0.83ポンド/m(1996年の価格による)と評価している。こうした推定値には、アウトプット損失、医療費、救急車と警察の費用、財産損害、人的費用などを算入する。道路の安全性向上により回避される死亡件数は、通例、個人が致命的事故に巻き込まれる確率の小さな変動に左右される。そうした価値は国民1人当たりGDPの想定変動率に応じて上昇する。
16. 英国運輸省では、支払い意欲方式に基づく非致命的負傷者の明確な金銭的効率性も採用している。重傷者と軽傷者は個別に評価するが、その両者の価値は国民1人当たりGDPの想定変動率に応じて上昇している。
17. 運輸省が採用した道路安全対策における事故死回避の価値と負傷者の費用は、他のプログラムには直接適用できない。個々人は事故死の原因と結果に対して無関心ではいられないらしく、たとえば突然死と疾病死とを比較する。それぞれ異なるグループは、リスクに対してそれぞれ異なる姿勢を示し、特定の事故死リスク回避に対する価値観にも反映させている場合もあれば、自分や他人が持っていると思われる自分自身の安全に対する管理能力から影響を受ける場合もある。しかし、こうした情況に合わせて調整すれば、一般的原則はもっと幅広い使い方ができる。
健康への影響
18. 健康への影響が単なる死亡や生存の問題となることは滅多にない。主として保健関係の政策領域では、平均余命(死亡や生存の場合の平均余命も含む)の変動と、できれば生活の質に関する変動をも考慮に入れる代替方式も採用できる。最も通用している健康便益の尺度は質的調整ずみ寿命年数(QALY = Quality-Adjusted Life Year)である。この尺度では、経時的に健康関係の生活の質という加重を平均余命に付ける。QALY値2は支払い意欲価値とほぼ同じようなもので、大きな違いは金銭の代わりに十分健康状態の寿命年数を算定基準として採用している点である。
19. 各種保健サービスを比較した場合、その臨床的効果が同じようなものとそれぞれ異なるものとがある。前者の場合は費用効果分析により比較でき、その便益はたとえば血圧のような単位で測定される。後者の場合は「費用効用分析」により比較でき、その便益は質的調整済み寿命年数(QALY)で測定される。
20. しかし、健康以外の影響に健康への影響を加重する場合は、健康への影響に金銭的効率性を付ける必要がある。多くの価値評価技法を健康に適用できるが、この場合は、問題も多い。原則として、サーベイ調査を行えば、健康への確定的影響に対する国民の支払い意欲を推定できよう。
21. 健康への影響が深刻でない場合は、上に述べたような時間の損失として扱える。それぞれ異なる情況の下での時間の価値にはいくつかの推定値があり、この方式にも適用できよう。
しかし、こうした処理方式は死亡には適用できない上、苦痛や病気を考慮しないため、健康への影響の価値に下限値を設けることになる。健康への影響に関する評価と価値評価については、厚生省の指針「政策の事前評価と健康」("Policy Appraisal and Health" 1995年)を参照されたい。